ニュース速報

ビジネス

アングル:在宅勤務が相場変動を助長、銀行や証券がリスク取れず

2020年04月01日(水)13時28分

 4月1日、相場が一方向に振れやすくなっている要因の1つに、金融関係者の在宅勤務が挙げられている。都内で3月撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

伊賀大記

[東京 1日 ロイター] - 相場が一方向に振れやすくなっている要因の1つに、金融関係者の在宅勤務が挙げられている。職場に比べ作業効率が低下する仕事環境の中で、リスクが取りにくくなっており、順張りファンドなどの売買を受け止めきれないという。都市封鎖で流動性がさらに低下すれば、円高要因になるとの指摘も出ている。

<かなり不便>

自宅で取引を行おうと思っても、実際上は、パソコンの通信速度が遅かったり、複数のモニターが同時に見られず、売買の判断が遅くなったりするとの声が、複数の市場参加者から出ている。

「コンプライアンス上、会社のデータを自分のパソコンにダウンロードできないので、必要な分だけ同僚にメールで送ってもらっている」(国内銀行)といった、作業上の細かな「面倒」もトレーダーたちの手足を縛っているようだ。

「オフィスで隣に座っている人との会話や、雰囲気もトレードの重要な判断材料だ。それが分からないとリスクが取りにくくなる」と、三井住友銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、森谷亨氏は指摘する。孤独感の中で、リスクを取る勇気を奮い立たせるのは容易ではない。

3月23日に書面で開催された、国債市場特別参加者会合(第85回)では、「オフィス分離や在宅勤務などが進んだため、オペレーショナル・リスクが以前に増して大きくなっている」との意見が出た。売買の執行にリスクがあれば、現場としては、トレードには慎重にならざるを得ない。

31日に実施された2年債入札が低調だった要因の1つにも、市場関係者の在宅勤務があったとの見方が多い。「2年債のメインプレーヤーは銀行。金利水準が上昇していたにもかかわらず、消極的な応札となったのは、年度末ということもあるが、在宅勤務でリスクがとれなくなっているからではないか」(国内証券)という。

<「カウンター」弱まる>

銀行や証券にはプライスが下がりすぎ、もしくは上がりすぎた場合に、逆張りでリスクを取りにいく、マーケットメイクの役割がある。

「ファンドのように解約による資金流出を警戒する必要がなく、自己の判断で機動的にリスクを取りにいける」(外資系証券)ことから、恐怖感が支配する下落相場でも、下値で買いに動くことで、結果的にマーケットに安定をもたらしてきた。

今回、コロナショックが広がる中で、株価が1000円幅で動くような大幅な変動が繰り返される背景には、日経平均などのインデックス(指数)の動きと連動させるように運用を行うパッシブ型ファンドの存在があるとみられている。

パッシブ型ファンドの戦略は、インデックスが上昇すれば買い、下がれば売る「順張り」だ。運用が複雑でないことから、手数料が安く、個人や年金の資金が流れ込み市場が急拡大している。「今回も順張り的な資金の流出入がみられ、それが相場の急変動を加速させた」と、野村証券のクロスアセット・ストラテジスト、高田将成氏はみる。

一方、銀行や証券は、リーマン・ショック以降の規制強化で、レバレッジ(てこ)をかけにくくなってしまったことに加え、今回のオフィス分離や在宅勤務の広がりで、さらにリスク許容量が低下している。市場の「カウンター」機能の低下が相場変動を大きくしている可能性は大きい。

<東京封鎖ならさらに増加>

仮に東京が都市封鎖(ロックダウン)されても、米国のニューヨークなどと同様、金融システム自体は維持されるとみられている。取引所を閉鎖して、売買の機会を奪うことは、不安を増幅させ、悪影響の方が大きくなるからだ。

日本では欧米のように強制力をもったロックダウンは法律上できない。西村康稔経済再生相は31日の経済財政諮問会議後の記者会見で、新型コロナウイルス特措法で想定されている緊急事態宣言は、欧米のロックダウンと異なり、強制力を持たず罰則があるわけではないと説明した。

ただ、ロックダウンが実施されれば、今以上に市場関係者の在宅勤務が増える可能性は大きい。そうなれば流動性やリスクテーク能力は一段と落ちる。

JPモルガン証券は31日付のリポートで、東京都がロックダウンに踏み切った場合、世界の金融市場と同様、金融セクターで在宅勤務が増加し、取引量の減少ならびに流動性が低下する恐れがあると指摘。名目実効レートベースでは円高方向で反応するとの見通しを示した。

今回のコロナショックを奇貨として、5Gなど情報技術を通じた在宅勤務の環境整備が進むことになりそうだ。実際、株式市場では早くも関連銘柄が物色され始めている。しかし、それにはまだ時間がかかる。振れやすい相場はもうしばらく続く可能性が大きい。

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米銀のSRF借り入れ、15日は15億ドル 納税や国

ビジネス

オラクル、TikTok米事業継続関与へ 企業連合に

ビジネス

7月第3次産業活動指数は2カ月ぶり上昇、基調判断据

ビジネス

テザー、米居住者向けステーブルコイン「USAT」を
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中