ニュース速報

ビジネス

アングル:安倍政権の「後継者問題」、政治の安定失えば日本株売りも

2019年11月21日(木)16時53分

 11月21日、金融市場で「ポスト安倍」への警戒感が強まり始めた。写真は東証を訪れた安倍首相、2013年12月撮影(2019年 ロイター/Yuya Shino)

伊賀大記

[東京 21日 ロイター] - 金融市場で「ポスト安倍」への警戒感が強まり始めた。安倍晋三首相続投の可能性が低下したとの見方が広まる中、次の本命候補が一向に浮上してこないためだ。政治の安定は日本市場の数少ない長所だけに、「後継者問題」がうまく解決されなければ、日本株売りの材料にされかねないと不安視されている。

<「蜜月」の終わりを意識>

第2次安倍政権が始まった2012年12月以来、日経平均株価は2.3倍に上昇した。投資家にとって安倍首相は歴代首相のなかでも「最も儲けさせてくれたうちの1人」だ。経済や物価はあまり伸びなかったが、株高を背景に支持率も安定、マーケットとの「蜜月」時代が続いてきた。

そのマーケットポジティブな政権の終わりを市場は意識し始めている。安倍首相の通算在任期間が歴代最長となり「記録」を樹立。念願の憲法改正にめどは立っていないが、来年の東京オリンピック・パラリンピックを終えた後に、引退すれば美しい花道となる。

安倍首相の自民党総裁任期は2021年9月。現在三選中であり、自民党党則では四選は禁止されている。四選を果たすためには、党大会で党則を変える必要があるが、来年3月8日に決まった党大会まで時間は乏しい。早期の解散・総選挙でもない限り、四選は難しいとの見方が強くなっている。

しかし、後継者の本命候補は依然見えない。「日本に詳しいポートフォリオマネージャーほど安倍首相の後に有力な後継者がいないとみている。誰になっても日本株のショートを考えると話す海外勢が多い」と、海外投資家動向に詳しい外資系証券の営業担当者は指摘する。

<「政治の安定」を失う懸念>

アベノミクスへの期待感は後退している。「次の時代を担う産業、企業が育てられなかったのが最大の失敗」(ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト、矢嶋康次氏)というのが、マーケットの一般的な見方だ。政策継続への期待感が強いわけではない。

市場が警戒するのは、政治の安定が失われることだ。政治が不安定化すれば、政策の予見可能性が低下する。投資家は不透明感を嫌う。アベノミクスの評価が下がりながら、株高を保ってこられたのは、政治が安定していたことが大きい。

安倍政権は第2次から現在の第4次まで12月で7年に及ぶ。世界を見渡しても、先進国で数少ない長期政権だ。日本の首相は毎年変わると言われていたころとは様変わりで、現在の日本株に乗る数少ないプレミアムとなっている。

海外勢の日本株投資は現物と先物を合わせて12年11月のアベノミクス相場スタートから、累計で一時25兆円近く買い越したが、今年8月には売り越しに転じた。足下は買い越しているが、ほぼニュートラルに戻ったとみていいだろう。しかし、政治が不安定化すれば日本株ショートの可能性が強まる。

<米中の狭間で求められる外交手腕>

「ポスト安倍」に求められているのは、ゆがみも目立ってきた国内経済への対応はもちろんだが、外交手腕の重要性がさらに増すとみられている。

BNPパリバ香港・アジア地域機関投資家営業統括責任者の岡澤恭弥氏は「中国が経済圏を広げていくの避けられない。米国との対立は今後も続く。こうした中、地政学的に米中の中間に位置する日本は、米中間をうまく渡っていければ、メリットを受けることができる」と指摘する。

マーケットがみる「ポスト安倍」の筆頭候補は、岸田文雄自民党政調会長と菅義偉官房長官だ。

菅官房長官は、国内向け政治手腕には定評があり、知名度も「令和おじさん」としてアップした。しかし、「外交経験が乏しい」(外資系投信)と市場は懸念する。

その点、外務大臣を務めた岸田政調会長は、外交に一定の経験がある。さらに岸田派の領袖であり、安倍首相との関係からみて「禅譲」の可能性が一番高いとみられている。しかし、こちらは「国内をまとめ切れるか未知数」(シンクタンク系エコノミスト)との不安が市場にはある。

<「再々登板」のシナリオ>

そこで、市場でささやかれているのが、安倍首相が一度辞めて、それから復帰するという再々登板のシナリオだ。自民党党則では「1期3年、連続3期まで」となっているので、一度辞めれば、四選禁止を避けられる。

また実際に復帰する必要はない。もしかすると再登板するかもしれないという見方を維持できれば、影響力を保つことが可能だ。安倍首相が「院政」を敷いて、にらみを効かせば、新首相のバックアップになる。アベノミクスが継承されれば、市場との良好な関係も続く。

しかし、長い目で見て日本にとってそれが良いことかは別だ。「安倍政権が若い世代を中心に高い支持率を保ってきたのは、痛みをともなう改革を避けてきたからだ。経済や企業にゆがみも目立ってきた。次期首相にはアベノミクスの後始末が求められる」とピクテ投信投資顧問のシニア・フェロー、市川眞一氏は指摘する。

残された時間はあまりない。何かのきっかけでインフレが進めば、いまの金融・財政政策は立ちいかなくなる。マーケットを味方につけながら、外交で器用に立ち回り、国内の雇用改革や成長戦略を進めることができるか。後継者の担う課題は安倍時代よりもさらに重くなることだけは間違いない。

*下から8段落目の表現を明確に再送しました。

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中