ニュース速報

焦点:トルコ、シリア侵攻で自縄自縛か 米制裁なら経済に打撃

2019年10月13日(日)08時58分

Jonathan Spicer Nevzat Devranoglu

[ベイルート/アンカラ 11日 ロイター] - トルコはシリアでの軍事作戦によって自縄自縛に陥るかもしれない。米議会の共和党指導部は対トルコ制裁をちらつかせており、実現すれば景気後退から立ち直りかけた同国経済は打撃を被りかねない。

トルコは1年前、米国による制裁と関税が一因となって通貨危機に陥ったが、ここ数カ月は通貨リラが落ち着きを取り戻してインフレ率も下がり、経済は過去20年で最悪の景気後退から脱した。

しかしシリア北部からの米軍撤収と、トルコ軍によるクルド人勢力への攻撃開始を嫌気し、通貨リラは足元で約4カ月ぶりの安値を付けている。

トルコ中央銀行は貸し出しを促進するため7月から利下げを開始し、追加利下げも期待されていたが、10日までに期待はかなり後退した。

トルコ軍による軍事作戦が泥沼化するようなら、経常収支赤字の拡大や資金調達コストの上昇、観光への打撃などのリスクが生じる。

しかし、トルコ資産にまだ織り込まれていない最大の脅威は、米共和党議員による制裁の動きだろう。

普段はトランプ米大統領の強力な擁護者であるリンゼー・グラム上院議員は、大統領による米軍撤収の決断を批判。9日には民主党議員らとともに対トルコ制裁の枠組みを明らかにした。

提案はエルドアン大統領らトルコ高官の資産を標的にしているほか、ビザ(査証)発給の制限、トルコとの軍事関連取引や同国のエネルギー生産支援に携わった者への制裁を盛り込んでいる。

グラム氏の案によれば、トルコは米国の反対を押し切ってロシア製ミサイル防衛システム「S400」を購入した件を巡っても、幅広い制裁を科される可能性がある。

<脆弱な経済>

コメルツバンク(フランクフルト)のFX調査責任者、ウルリッヒ・ロイヒトマン氏は、より幅広い制裁を科されれば「トルコ経済の景色は一変し、昨年の危機で脆弱になった経済がまた景気後退に陥る可能性も覚悟せざるを得ない」と言う。

米議会がグラム議員の案を承認するか、またトランプ大統領が拒否権を発動した場合に3分の2の賛成を得てそれを覆せるかは、定かでない。

トランプ氏は今週、トルコがシリア問題で一線を超えればトルコ経済を「壊滅」させると述べたが、その真意は明らかにしておらず、同氏が制裁を支持するかどうかも分からない。

トランプ氏は昨年、トルコに拘束した米国人牧師の解放を迫り、限定的な制裁と一部輸入品の関税引き上げを実施した。

<リラ下落、利下げ予想後退>

リラは昨年30%近くも下落した。今週に入ってからは3%超下がり、1ドル=5.90リラに近付いている。トレーダーによると、どの水準まで下がれば国有銀行が介入を始めるかは不明だ。

今週はトルコの債券と株も急落し、主要株価指数は5%以上の下落となった。

トルコの上級バンカーは「米国との関係は重要な懸案事項だが、まだ予想がつかない」と述べ、米国でエルドアン氏とトランプ氏の会談が予定されている11月13日までは少なくとも、懸念が続くとの見方を示した。

短期金融市場では先週まで、現在16.5%の政策金利が年末に13.5%まで下がると予想されていた。しかし、現在は、利下げ予想が後退し、市場が織り込む年末の水準は15%となっている。

<民族主義>

トルコ軍のシリア侵攻により、同盟国である米国との関係に新たな緊張が走った。しかし、エルドアン氏はトランプ氏との間には「別種の信頼」があると述べている。

米議会が新たな制裁を決めれば、トルコで反感を巻き起こしかねない。エルドアン氏は9日、侵攻を非難した欧州諸国を批判し、民族主義的な感情を鼓舞する演説を行った。

オックスフォード大の客員講師、ガリップ・ダレー氏は「目下、トルコの民族主義熱はうなぎ上りだ」と指摘。米議会が制裁を承認すれば、「アンカラの市民は(ミサイル防衛システムを購入して)ロシアに近付いた決断は正しかった、自分たちにトランプ氏は同情的だが、ワシントンの他の支配者層である米議会は敵対的だと確信するだろう」との見方を示した。

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米軍、中東で防空態勢強化 カタール基地のパトリオッ

ワールド

トランプ氏「イランは合意望む」、協議不調なら厳しい

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、小売売上高が伸び悩み

ワールド

トランプ氏、カナダに国際橋の共同管理要求 「両岸所
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    台湾侵攻を控えるにもかかわらず軍幹部を粛清...世界…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中