ニュース速報

アングル:北朝鮮のSLBM、本当の脅威度と実戦配備の壁

2019年10月05日(土)09時20分

[ソウル 2日 ロイター] - 北朝鮮は2日、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験を行ったとみられる。SLBMの開発は着手から比較的日が浅いが、核弾頭搭載に向けて急速に進んできた。今回の発射がSLBMであれば、この3年間では初めてとなる。

発射の数時間前に、北朝鮮は今週末に米国と核開発問題の協議を再開すると発表していた。

ミサイルの正確なタイプや、発射プラットフォームはなお不明だが、専門家は「既存の枠を超える」動きだったように見えると指摘した。

◎何が起きたか

2日午前7時すぎ、北朝鮮のウォンサン(元山)から北東約17キロの沖合でミサイルが発射された。ウォンサンは同国の軍事拠点の1つで、過去にもミサイルが発射されている。

日本政府は当初、2発のミサイルが発射されたと発表したが、その後1発が分離したと修正。日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したという。

韓国のチョン・ギョンドゥ国防相は、イージス艦がミサイル1発を探知し、飛距離は450キロ、最高高度は910キロで高い角度で飛距離を抑える「ロフテッド軌道」で打ち上げられたと説明した。

ミサイルを発射したのが潜水艦か、海上プラットフォームかは不明だ。

ある米政府高官は、当座の分析に基づくとミサイルは海上プラットフォームから発射され、潜水艦に搭載できる弾道ミサイルだとの見方を示した。

◎これで生じる新たな脅威とは

ミサイルが標準的な軌道で発射されていれば、飛距離は最長1900キロとなり、中距離ミサイルに分類される。韓国と日本の全土が射程内に収まる形。両国にとって近海に展開した潜水艦からのミサイルは、ミサイル防衛システムでの対応がより困難となる。

SLBMの脅威は潜水艦の航続距離次第でどんどん高まる。北朝鮮が保有する「ロメオ級」は約7000キロの航続距離を持つとみられ、片道ならハワイ近くまで到達できる。

ただロメオ級のエンジンはディーゼル式で非常に音が大きいので、探知されやすい。特に米軍は旧ソ連の潜水艦に数十年も対処してきたという経験がある。

◎北朝鮮のSLBM開発の経緯

北朝鮮がSLBMの開発に乗り出したのは2015年で、16年8月に1回目の発射を実施。2段階式固定燃料の「北極星」がロフテッド軌道で打ち出され、500キロ飛翔し、実験が成功したとみなされた。

それ以降実験の情報は聞かれず、北朝鮮は中長距離のSLBM開発を進めていた様子がうかがえる。

以前の発射実験は、ウォンサンからおよそ110キロ離れた港湾都市シンポ(新浦)で行われた。この地は北朝鮮の潜水艦部隊の大部分の根拠地となっているもようだ。

北朝鮮の潜水艦は総数こそ世界最大級だが、大半は小型か旧ソ連時代の古いタイプで、弾道ミサイル搭載能力があるのは1隻にとどまるとみられている。

同国は今年7月、金正恩朝鮮労働党委員長が大型の新造潜水艦を視察し、その実践配備が近いと表明していた。

専門家は、北朝鮮の国営メディアが公表した写真から、新造潜水艦はロメオ級を改良して外殻を拡大しただけで、より大きな新型ではないとの見解を示した。

◎第2撃能力を備えたか

SLBMは、先制核攻撃を受けた場合に報復する「第2撃能力」を確保する上で鍵になるとみなされている。

この能力を備えるには、潜水艦は核の弾道ミサイルを発射できるだけでなく、敵を攻撃できる範囲で航行し続けることが必要になる。

軍事専門家は、北朝鮮の潜水艦技術が第2撃能力を得る地点まで高まったかどうか懐疑的だ。

◎他の最近のミサイル実験

北朝鮮は、金正恩氏がトランプ米大統領と今年6月30日に板門店で会談し、核問題の協議再開を約束して以降、計9回のミサイル発射実験を行ってきた。

今回を除けば、いずれも短距離ミサイルやロケット弾で、想定している攻撃対象は韓国や在韓米軍だ。

2017年11月には大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験があり、これは標準的な軌道なら飛行距離は最長1万3000キロと、米本土に届く。

ただ専門家は、北朝鮮が大気圏再突入に耐えられ、精密に標的に到達できるような小型核弾頭を製造する技術はまだ習得していないと考えている。

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米軍麻薬作戦、容疑者殺害に支持29%・反対51% 

ワールド

ロシアが無人機とミサイルでキーウ攻撃、8人死亡 エ

ビジネス

英財務相、26日に所得税率引き上げ示さず 財政見通

ビジネス

ユーロ圏、第3四半期GDP改定は速報と変わらず 9
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中