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貿易とEU離脱巡るリスク増大、英経済は支援必要の公算=中銀総裁

2019年07月03日(水)08時48分

[ボーンマス(英国)/ロンドン 2日 ロイター] - イングランド銀行(英中央銀行)のカーニー総裁は2日、世界的な貿易戦争のほか、英国の合意なき欧州連合(EU)離脱に起因する英経済に対するリスクは増大しており、景気減速に対応するために若干の支援が必要になる可能性があるとの考えを示した。これを受け、英中銀による利下げ観測が高まった。

カーニー総裁は講演で、トランプ米大統領の通商政策を主因に世界経済に関する投資家の懸念が「著しく変化」したと指摘。

「最近の動きは貿易摩擦が従来の想定よりも広くまん延し、根深くて打撃が大きくなる可能性を示している。行動を起こす理論的根拠が厚みを増している」と語った。

総裁はまた、多くの先進国でインフレが根強く低迷していることは、いわゆる均衡利子率が中央銀行の想定よりも低い水準にある可能性を示していると指摘。ただ、世界の多くの国で金利がすでに低水準にあることを踏まえると、経済が衝撃を受けた際は景気支援に向け政府支出の拡大や減税などが必要になる場合もあるとし、「一部の国・地域では金融政策の余地が限られる可能性があり、減速が現実になれば、財政政策による補完が一段と望ましくなる」と述べた。

カーニー総裁の発言を受け、英ポンドが対ドルで2週間ぶりの安値を付けたほか、トレードウェブのデータによると、英10年債利回りは10年ぶりに英中銀の政策金利(現在0.75%)を下回った。市場では英中銀が年末までに利下げを決定する確率が57%であることが示されている。総裁発言前は41%だった。

ナットウエスト・マーケッツのエコノミスト、ロス・ウォーカー氏は「カーニー総裁は近い将来に利下げがあると示唆しているとは考えていないが、少なくともリスクバランスは変化した」と述べた。

<EU離脱>

米連邦準備理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)がハト派的なシグナルを発する中でも、英中銀はEU離脱が円滑に進めば段階的な利上げが必要になるとの見解を堅持。ただ、カーニー総裁は英中銀のこうしたスタンスと市場の見方との間に乖離が出ていることは認めた。

中銀はボリス・ジョンソン前外相とジェレミー・ハント外相のどちらが次期首相に就任してもEUと合意した上で離脱する目標を追求することを前提に方針を決めていると説明。離脱を巡る合意が得られた場合は英経済の見通しが急速に改善する可能性があるため、金利見通しに関する主な見解を変えてこなかったとした。

このほか「英国では労働市場が引き締まり、インフレ率が目標を達成していることに加え、EUとの将来的な関係は近く明確さが増す見通しであることから比較的力強い初期条件がそろっており、(中銀が)中期インフレ見通しに注目することの論拠となっている」と表明。中銀が8月に経済見通しを更新する際にこうした状況を正確に描き出す方法を模索するとした。

また米FRBの政策を巡り、不確実性の台頭を受け市場で利上げ観測が急速に利下げ観測に転換したことに言及。これを受け、「一部の国・地域では、景気拡大の維持に向けた保険としての短期的な政策対応が正当化される可能性がある」と述べた。

「市場はこれよりはるかに大規模な刺激策を現在織り込んでいる。貿易動向に関する悲観論の強まりや、恐らくはインフレ圧力の欠如への懸念が示唆されている」と続けた。

*内容を追加しました。

ロイター
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