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焦点:日本席巻狙うNZ産ワイン、CPTPP(訂正)発効が追い風に

2019年01月04日(金)17時47分

Leika Kihara and Charlotte Greenfield

[東京/ウェリントン 20日 ロイター] - のどかなニュージーランド(NZ)の丘陵地域から、こじゃれた東京の食卓へ──。ホークスベイ産ワインがたどる長い旅路は、自由貿易協定に支えられた大いなる成功への道だと、ナイジェル・エイブリー氏らNZのワイン輸出業者は希望を膨らませている。

同氏が経営する「シレーニ・エステート」は、日本とNZなど11カ国が参加する自由貿易協定が、事業の追い風になると期待している。米国と中国がいまだ貿易戦争の泥沼から抜け出せず、欧州事業も英国の欧州連合(EU)離脱騒ぎで混乱しているだけに、なおさらだ。

トランプ大統領の決断によって米国が抜けたとはいえ、この「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定」(CPTPP)がカバーする地域は世界経済の10分の1以上を占めている。

これにより、マレーシア産ゴムやオーストラリア産牛肉などのニッチな業界では、将来に向けた期待が高まっている。裕福な日本の愛飲家の心をつかみたいと切望するNZのワイン業者も同様だ。

30日のCPTPP発効を受けて、日本政府はNZ産ワインに課している現在15%の輸入関税の引き下げに着手する。2025年までに完全撤廃を目指す。

米農務省が総額16億ドル(約180億円)と試算する輸入取引に対して、ワインの売上げはわずかであり、その成長を加速するには、NZのワイン生産者は販促投資を充実させて、欧州産ワインの優位に挑まなければならないだろう、と日本の輸入業者は指摘する。

ワイン生産量において、NZのトップ10ブランドに入るシレーニ・エステートには、売上げを拡大するポテンシャルがあると、エイブリー氏は確信している。

「いわゆる『旧世界』産ワインの消費が多い(日本)市場が成熟するにつれて、もう少し視野を広げようという動きが始まっている。確実にNZワインにも出会うだろうし、われわれのワインを飲んだ人は本当に気に入ってくれる」と、16年からCEOを務めるエイブリー氏は語る。

とはいえ、欧州のワイン生産者もこれを座視するつもりはなく、近々新たな自由貿易協定を締結する予定だ。日本と欧州連合(EU)間の関税削減に向けた包括的協定は、早ければ19年2月に発効する見込みだ。

「この貿易協定により、われわれの対日輸出は拡大し、輸出リーダーとしての立場は強まるだろう」。EUのワイン産業ロビー団体CEEVのジャンマリー・バリエール会長は12日、日本とEUの経済連携協定(EPA)が欧州議会で承認されたことを受けた声明でそう述べた。

<高まる日本人のワイン熱>

日本では1980年代の経済力向上とともにワインが愛好されるようになり、その後も続いている。アデレード大学の調査によれば、2015年のワイン消費額において、日本は世界第5位につけている。

日本に輸出されるNZワインは少量だが、外食産業における需要が伸びる中で着実に増大している。

ワイン評論家カーティス・マーシュ氏が「価格と品質の調和において期待を超える誠実なワイン」と評したNZワインの日本での売上高は、過去9年間でほぼ倍増の1400万NZドル(約10億円)に達した。NZワイン生産者協会によれば、米国向け輸出は5億NZドルを超えている。

シレーニにとって、日本向け輸出は03年頃は皆無だったが、今や米国に次いで2番目に大きい海外市場となっている。ウェイトリフティングの元オリンピック代表であるエイブリー氏は、父親から同事業を引き継ぐ前は米国での販売を指揮していた。

エイブリー氏は、販売量は明らかにしなかったが、他の多くの市場でNZ産のソービニヨン・ブランやピノ・ノワールが好まれるのに対して、日本の消費者の好みは多様だという。シレーニが日本向けに輸出しているワインは15種類前後に上る。

日本で販売されるNZワインの大半は、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの棚には並ばない。日本の高級レストランのメニューに名を連ね、顧客からは、フランス産高級ブランドに比べ、相対的に低価格だが高品質な選択肢と見られている。

<1本40ドル以上でも最安値>

ある金曜の夜、東京都心の一等地・麻布にある「鳥善 瀬尾」のメニューを飾っていたのは、伝統的な鳥の串焼き「焼き鳥」の高級グルメ版だった。シレーニの1本4800円のワインは、欧州産が大半を占めるワインリストの中で最も安い。夜のコース料理は5000─8000円で、ワインは1本7500円前後である。

日本のワイン愛好家は、あまり伝統的ではないレストランやホテルにおいて斬新な風味をアピールする、いわゆる「ニューワールド(新世界)」と呼ばれる国々のワインへ嗜好の範囲を広げようとしている、と業界関係者は指摘する。

「最近では、同じ値段でも、フランス産ワインよりNZ産ワインの方が質の良いものが手に入る」と49歳の会社員の女性は言う。

以前はフランス産を好んでいたというこの日本人女性は、「質を考えると、NZ産ワインはリーズナブルな価格だ」と語る。

NZ産ワインに対する関税がゼロになれば、場合によってはさらに価格が下がる。値下げしない場合は利益が膨らみ、その分を、例えば日本で開催される19年ラグビーワールドカップ(W杯)とのタイアップなどのマーケティングに回すこともできる。NZ代表はラグビーW杯での有力な優勝候補の一角だ。

NZ産ワインにもっと関心を集めるには、何らかのイベント、きっかけが必要だと、ワイン輸入大手エノテカの執行役員、改野晃一氏は指摘する。エノテカは10年以上前からシレーニを日本に輸入してきた。

1つの方法は、NZ産の食材、たとえば牧草で育てたNZ産牛肉と合わせて同国産ワインを宣伝することだと同氏は言う。

CPTPP参加国のニッチな事業者が輸出拡大するには差別化が必要だというメッセージが重要だと、NZ食肉生産企業アンズコフーズの日本法人、アンズコフーズジャパンの金城誠社長は言う。

ワイン輸出大国を相手に、量や価格面でNZが戦うのは難しいと金城社長は言う。NZワイン輸出事業者もそれは理解している。市場シェアで格下であれば、ライバルとは何か違うことをやる必要がある、と語った。

(翻訳:エァクレーレン)

*見出しのCATPPをCPTTPに訂正して再送します。

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