<トランプ批判で民主党は一丸となれたが、これから主流派と急進派の分裂はいっそう先鋭化しかねない>
11月3日に投票が行われた米中間選挙は、民主党の歴史的な大勝となりました。上院では、オハイオ、アイオワ、サウスカロライナ、メーン、ノースカロライナ、カンザス、テキサスと、共和党が保持していた7議席を奪取し、現地4日朝の時点で54対44と過半数を大きく上回っています。
テキサス州では州議会議員のジェームズ・タラリコ氏が勝利しましたが、民主党がテキサスの上院議席を得るのは1988年以来のことです。メーン州では長年の「宿敵」だったスーザン・コリンズ議員を破り、ミシガン州では左派のアブドゥル・エルサイード氏が当選してアメリカ初のイスラム教徒の上院議員となります。下院でも少なくとも27議席を奪還し、文字通りの「ブルー・ウェーブ(民主党のシンボルカラーは青)」が全米を覆いました。
2016年、2020年、2024年と3回の大統領選挙で、トランプ大統領と共和党は一貫して既存政治への不満票の受け皿となってきました。ところが今回は、物価高と生活苦が一向に改善しないなかで、その不満の矛先が政権与党そのものに向かいました。現状不満票という最大の武器が、そのまま巨大なブーメランとなって返ってきたと言えます。
来年1月に新議会が招集されれば、下院議長には現在の民主党院内総務であるハキーム・ジェフリーズ議員が就く見通しで、実現すれば初のアフリカ系下院議長となります。下院議長は、副大統領に次ぐ大統領継承順位第2位の要職です。上院でも多数党院内総務のポストが民主党に戻り、ベテランのチャック・シューマー氏の続投が有力視されています。さらに、各常任委員会の委員長ポストもすべて民主党が握ることになります。
もちろん、予算や法案については大統領に拒否権があり、上院には60票を必要とするフィルバスター(議事妨害)の壁もあるため、民主党が思い通りに立法できるわけではありません。それでも、予算の審議権、政府高官人事の承認権、そして行政に対する調査権という大きな権限を手にしたことは間違いありません。
「反トランプ」は一種の麻薬
理念も支持層も大きく異なる勢力を抱える民主党にとって、ほぼ全員が団結できる唯一の旗印が「トランプ批判」です。今回の選挙も、反トランプの一点で党内を引き締めたことが勝利につながりました。新議会では、委員長ポストと召喚権限を武器に、トランプ一家の公私混同疑惑などへの調査を本格化させるでしょう。
しかし、これは一種の麻薬でもあります。トランプ家への追及を続けている限り、党内の結束は保たれます。けれども、その分だけ物価や雇用、成長戦略といった政策論議が後回しになる危険があります。有権者が民主党に票を投じたのは生活の改善を期待したからです。選挙における民意では「汚職批判」が予想以上にあったのは事実ですが、議会での「追及劇」を延々と見せられるだけで、生活改善への動きが先送りされたら、支持者は幻滅してしまうでしょう。
問題は、この党内の結束が極めて脆いことです。ハリス前副大統領やニューサム・カリフォルニア州知事に代表される主流派は、グローバリズムやAI開発の推進、そしてイスラエル支持という立場を基本的に崩していません。その一方で、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)下院議員に代表される左派は、AI規制を掲げ、パレスチナへの連帯を隠しません。
そして今回の結果を見る限り、左派は確実に勢力を伸ばしました。AOCが予備選段階から後押ししたエルサイード氏のミシガンでの勝利は、その象徴です。上院の院内総務選びでも、エルサイード氏やメーン州で勝利したトロイ・ジャクソン氏ら左派系の新人は院内総務指名に当たって、シューマー氏支持を明言しておらず、早くも主導権争いの火種がくすぶっています。ニューハンプシャー州の世論調査ではAOCがブティジェッジ前運輸長官をわずかに上回るなど、AOCへの大統領選出馬待望論は今後さらに加速するでしょう。