Elizabeth Howcroft AJ Vicens
[パリ/デトロイト 3日 ロイター] - 暗号資産(仮想通貨)交換業大手のバイナンスは3日、先週発生した63億ドル相当の暗号資産流出について、ハッカーが偽の採用面接や改ざんされた開発ツールの広告を通じてマルウエアをダウンロードさせ、ソフトウエアエンジニア2人の端末に侵入し、その後3人目の端末を悪用して資金を盗み出したと明らかにした。
バイナンスは、史上最大級の金融窃盗事件になる可能性がある今回の攻撃の手口に関する初期報告を公表。その中で、ハッカーによる攻撃は6月に始まった多段階の作戦だったとし、一連のセキュリティー侵害が10月29日の資金流出につながったと説明した。
バイナンスが29日遅くに攻撃を検知してシステムの封鎖や出金停止措置を急ぐ中でも、最初の不正流出から約4時間にわたり暗号資産の流出が続いたという。
米連邦捜査局(FBI)は今回の事件について北朝鮮のハッカー集団が関与したとの見方を示しているが、北朝鮮は関与を否定。バイナンスは資金を盗まれた全ての顧客への補償を進めているとしている。
サイバーセキュリティー企業DTEXの研究者マイケル・バーンハート氏によると、サイバーセキュリティーの専門家や政府当局者は長年、北朝鮮などのハッカーが偽の採用面接を利用し、標的企業の従業員を狙っていると警告してきた。偽の採用面接は広く知られたハッキング手法だ。
バイナンスは2026年に北朝鮮との関連が疑われるサイバー脅威を57件検知し、阻止したと説明した。バーンハート氏は、これは同社が「まさに攻撃を浴び続けている」ことを示していると語った。
バイナンスは報告書で「このような事態は起きてはならなかった。利用者やパートナー、業界全体に懸念と混乱、不確実性をもたらしたことをおわびする」と表明した。
<担当者の役割が露呈>
バイナンスによると、攻撃の発端は6月、ウォレット開発チームの従業員が、ハッカーに改ざんされたツールをインターネットからダウンロードしたことだった。同社は後にこれを検知し、端末を交換して認証情報も変更したが、この従業員やウォレット開発チームの他のメンバーの担当業務は攻撃者に把握されていた。
関係者によると、このツールの改ざん版は広告に掲載され、検索エンジンで正規版より上位に表示されるようになっていた。
報告書によると、その後9月に、転職先を探していた別のソフトウエアエンジニアが、正規の求人だと思い込んで採用面接を受けた後、自身の端末に悪意あるコードを含むプログラム一式をダウンロードした。面接には架空の企業の最高経営責任者(CEO)とのオンライン面談も含まれていた。
10月20日、攻撃者は侵入済みのこの端末と社内の人工知能(AI)ツールを使い、先のウォレット開発担当者と、もう1人のウォレット開発担当者のシステムを掌握した。
10月29日、攻撃者は新たに掌握したもう1人のウォレット開発担当者の端末を使い、6月に標的となった担当者から盗んだ認証情報で悪意あるスクリプトを実行して攻撃を開始した。
関係者によると、暗号資産の保管や取引に使うウォレットに直接アクセスできる同社のエンジニアは限られている。
<わずか数分で暗号資産を流出>
報告書によると、10月29日の攻撃は急速に進み、インターネットに接続されたバイナンスの5つの「ホットウォレット」から、わずか4分間で暗号資産XRPが攻撃者の管理するアドレスに2億3346万XRP送られた。その後、ビットコインなど他の暗号資産も引き出された。
バイナンスは、多額の送金に関する社内警告を受けて調査を開始したと説明した。出金停止や影響を受けたトークンの凍結、不正に付与された権限の削除に動き、約28億5000万ドルの資産が凍結された。ただ、出金停止だけでは全ての不正な資産移動を止められなかった。
攻撃者は50件の署名トランザクションを使ってアカウントを操作し、資産移動を可能にする不正な権限を設定した。一方、バイナンスは承認を取り消すための新たな手順を構築せざるを得ず、対応が遅れたと説明した。
最後の不正送金は29日2356GMT(日本時間30日午前8時56分)で、攻撃開始から4時間近くが経過していたという。
バイナンスは今回の事件を受け、AIを活用した検知への投資を増やしていると説明した。セキュリティー研究基金の設立や、主要AI企業との重点的な取り組みも進めている。