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[ロンドン 29日 ロイター] - イランが世界各地に広がる秘密の軍事機関ネットワークを構築し、米国による海上封鎖と西側諸国の制裁をかいくぐって、2025年1月から今年6月の間に20億ドル(約3156億円)以上相当の軍事装備品、爆薬、大型トラックを輸入していたことが、ロイターの調査で明らかになった。
これらの軍事機関の総数は5000を超え、それぞれの国防省(Ministry of Defense)の略称である「MOD」で始まる名称がつけられている。そのネットワークは強力な金融・軍事機構を形成。船荷証券などの海運記録によると、資金の流れは2016年にまでさかのぼり、組織の一部はイスラム革命防衛隊(IRGC)やイランのエリート層が支配する「ボニヤド(Bonyad)」と呼ばれる財団系複合企業とつながっている。
調査対象期間のうち4カ月は、米国とイスラエルによるイラン攻撃を端緒とする現在進行中の紛争に当たる。今回の調査結果は、IRGCがミサイルや無人機を数千発単位で発射しながら、どのようにして兵器庫を補充しているのかという、大きな謎の一つに光を当てるものだ。
今回のMODネットワークに関する調査は、イランの銀行・政府関連記録数千件、企業登記資料、輸入データに基づいている。
各MOD機関は、それぞれ固有の11桁の政府識別番号を持ち、イラン国内の数千の企業を登録する公式データベースである企業登記簿にも記載されていた。イラン国防軍需省(MODAFL)と同じテヘランの住所を登録している。設立日は、アヤトラ・ホメイニ師が王政を打倒してイランの権力を掌握した1979年2月11日と記載されている。しかし、記録によると、実際にはその大半が2013年に設立されていた。当時のイランは制裁に苦しみ、原油輸出が大きく減少し、通貨の価値が急落していた。
ロイターが米イスラエル系リスクコンサルティング会社「240アナリティクス」と共同で初めて特定したこれらの機関は、イランの軍事調達と制裁回避の仕組みを支える中核的役割を担っている。組織は、フロントマン(名義上の代理人)や海外のペーパーカンパニーからなるネットワークを運営。こうした関係者は総称して「トラスティー(受託者)」と呼ばれ、違法な原油販売で得た資金を使ってイラン向けの物資を購入している。
ネットワークの最終利用者の一つが、イランの弾道ミサイル計画を統括する軍事部隊だ。もう一つは「サハラ・サンダー」と称する企業で、ロシア向けの無人機を製造・供給し、ウクライナに甚大な被害をもたらしたとして、2024年に米国の制裁対象に指定された。
<別の貿易システム>
MOD機関は、正式な国際経済とは別の対外貿易システムを形成している。昨年まで米財務省外国資産管理局(OFAC)のアソシエイトディレクターを務めていたミアド・マレキ氏によると、イランはこうした仕組みを使うことで、違法な原油販売によって海外で得た資金を軍事装備品の購入に充てることができるようになっている。
資金が国境を越えて移動することはほとんどない。国境を越えれば制裁当局の警戒を招く恐れがあるためだ。ロイターが確認した輸送案件の97%は、輸入データ上、「資金の送金を伴わず」に決済されており、海外在住の信頼できるフロントマンが、外国の銀行に保有する現金を使って物資を購入し、イランに送っていた。
ロイターは約1万9000件の輸入記録の一部について、船積み書類やソーシャルメディア上の映像、国営メディアの報道と照合した。データによると、イランが輸入した品目のほぼ全ては関税免除の対象で、軍事装備品として明確に記載されていた。ただ、専門家らは、爆薬を含め、物資の多くは軍民両用と見なすことができ、民間用途にも使用可能だと指摘した。
<浮かび上がった「MOD346428」>
240アナリティクスの上級アナリスト、ノアム・ビンストック氏が番号付き機関の存在を見つけたのは25年6月。IRGCの給与や年金の支払いを取り扱うイランの銀行、セパ銀行の数千ページの文書を入手し、イランの金融活動の解明に役立つてようと自社のオンラインプラットフォームにアップロードしていたときだ。ビンストック氏は間もなく、数千に上る口座が、共通の命名パターンを持つ機関によって保有されていることに気付いた。名称はいずれも「MOD」、ペルシャ語では「VODJA」で始まり、その後に5桁または6桁の数字が続いていた。
240アナリティクスはロイターに協力を求め、ネットワークの全容解明に乗り出した。ロイターはビンストック氏から提供された11桁の識別番号を使い、機密扱いの船積み書類や最新の輸入データを調べた。さらにイランの企業公報を利用し、ネットワークの規模と、戦争中にイランが軍事物資を補充する仕組みを明らかにした。
16年にまでさかのぼる購入記録がある機関の一つが、「MOD346428」だ。イランのメディアが公表した税関統計によると、MOD346428の海外からの購入額は年々増加。23年3月までの12カ月間は4億4200万ドルだったが、その翌年の同期間には9億8800万ドルに達し、イランの輸入業者上位10社に入る規模となっていた。
「これらの番号付き機関は、イランが世界規模で制裁を回避するネットワークを機能させるための『配管』のような存在であり、それ以上の役割も担っている。これらの機関を通じて動く資金の規模は驚くべきものだ。誰もその存在に気付いていなかった」とビンストック氏は語った。
<明らかになる輸入取引>
輸出入データを集約するプラットフォーム「インポートジーニアス」の記録を調べたところ、25年1月から26年6月までに、MOD346428は23億ドル相当の軍事装備品を輸入していた。
輸入データによると、25年1月から4月にかけて、イランのバンダルアバス港湾地区に886トンの化学物質を輸入した。原産地は中国と記録され、塩素酸ナトリウムや過塩素酸塩を含む分類コードが使われていた。これらは固体ロケット燃料の重要な前駆物質だ。最後の貨物が到着してから3日後の4月26日、港では大規模な爆発が発生した。当時の爆発について事情を知る2人によると、埠頭に置かれた輸送用コンテナ内で過塩素酸ナトリウムが発火したことが原因。イラン国営メディアは、化学物質は「シナ港湾・海運サービス開発会社」によって保管されていたと報じた。同社は、イランの最高指導者が直接支配する数十億ドル規模の「モスタザファン財団」の傘下にある。
このほか、25年1月から26年6月までに、MOD346428はイベコ製トラックを435台輸入した。ロイターは衛星画像とソーシャルメディアを利用し、テヘラン郊外の税関施設にこれらの車両の一部が置かれていることを確認。さらに輸入データを使い、車両のメーカーや原産地を特定する固有のコードである車台番号(VIN)3つを照合した。
ロイターの調査結果を受け、イベコは「正規販売代理店には、これらの製品が軍事、化学、生物、核関連の目的で使用されないことを保証する義務がある」と説明。イランにある同社の車両はイベコ・グループの管理と責任の外にあるとし、ロイターが税関施設で確認したトラックの大半は中央アジア向けだったとしている。
輸入データによると、MOD346428はトヨタ自動車の「ハイラックス」と「ランドクルーザー」数千台を輸入。25年1月には、「タンドラ」4台を輸入した。
タンドラは、イランのイスラム革命防衛隊がドローンの運搬に使用している。ハイラックスとランドクルーザーは、イスラム革命防衛隊やその傘下勢力が荷台に重機関銃を搭載するよう改造したもようだ。今年初め、イランでの抗議活動の動画には、北部トネカボンの街頭を走るランドクルーザーの車列に乗った機関銃を構える治安部隊が映っている。
トヨタの広報担当者は、同社はイランでいかなる事業も行っていないと説明し、「ロイターが報じた購入に関与しておらず、そういう話を把握もしていない」とした。
日本の経済産業省は、ロイターの調査の具体的な内容についてはコメントできないとした上で、安全保障に関連する貨物に対して厳格な管理を維持していると説明した。
26年6月には、ロシア製の起爆装置190万ドル相当が輸送された。これは、2025年以降にロシアから行われた同様の5回の輸送のうち最後のもので、起爆装置の輸入総額は760万ドルに上る。
輸入データでは、イラン国防省に制裁を科している欧州連合(EU)域内の企業からもイラン軍向け物資が出荷されていた。数億ドル相当のトラックや航空機エンジン部品、電子機器が、ドイツなどEU域内から輸入されたと記録されていた。この中には、イベコ製トラック3400万ドル相当も含まれていた。いずれの書類にも、MOD346428の名称が記載されていた。
輸入データの全てに、貨物の詳細な説明が含まれていたわけではない。多くの場合、ロイターは税関コードを使って品目の内容や申告上の原産地を特定したが、独自に確認することはできなかった。
ロイターの調査結果を受け、米財務省の報道官は声明で、米国は「イラン政権の経済的な生命線を断ち切った」と述べた。その上で「同政権はわれわれの強力な制裁を逃れ、軍事・兵器計画の資金を賄い、外貨を手に入れようと必死の試みを続けるかもしれないが、われわれは常に10手先を行っている」とした。
中国外務省は、ロイターの質問に対し「指摘された状況について承知していない」とし、「地域の敵対行為を悪意を持って中国と結びつけたり、中国の評判をおとしめたりする試みに断固反対する」とした。イラン政府機関とロシア国防省は、コメント要請に応じなかった。
EUの報道官は、サハラ・サンダーなどを対象とするEU制裁の執行責任は加盟国にあると指摘。「EUは、イランによる無人機・ミサイル計画の強化に関する情報を引き続き慎重に精査している」と説明した。ドイツ政府とイタリア政府は、コメント要請に応じなかった。