イギリスが猛暑に見舞われた今年の夏。なかでも最も暑かった8月13日に、南東部イーストサセックス州ルイス近郊で列車が脱線した。3両が横転し、30人が負傷。翌14日には、エセックス州でも列車が脱線した。

どちらの事故も原因は分かっていない。だが国内の鉄道網の大部分を所有・管理する公共企業ネットワーク・レールは、相次ぐ熱波が「鉄道に多大な負担をもたらしている」と述べた。高温が鉄道に特有の問題を引き起こし、気温の上昇とともに熱に起因する設備の不具合が増える恐れがあることは確かだ。

英ウォリック大学のシュエユィ・コン教授(地盤工学)は、線路の設計と盛り土の安定性を専門とする。熱波が鉄道網にもたらす主な課題と、厳しさを増す暑さの中で列車の安全性と効率性をどう保つかについて、学術系ウェブサイトのザ・カンバセーションが聞いた。

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──猛暑は鉄道にどのような影響を及ぼすのか。

鋼鉄は熱せられると膨張する。鉄道網の大半で使われているのは、長いレールを溶接してつなげた「ロングレール」だ。継ぎ目があって自由に伸びるレールとは違い、枕木や締結装置、バラスト(線路の下に敷く砕石)によって、伸びが実質的に抑えられている。レールは熱せられると伸びようとするが、それが抑えられるために大きな圧縮力が蓄積する。

その力が、線路の横方向への動きを抑える力を上回ると、線路が横にずれる「張り出し」が起きる。猛暑は単に乗客の快適性を損ねたり、遅れをもたらすだけでなく、安全上の深刻な問題なのだ。

レールの温度と気温も別物だ。直射日光の影響は大きい。同じ気温でも、日なたにあるレールは日陰のものよりかなり高温になることがある。

しかし、温度だけで決まるわけではない。バラストに加え、枕木や締結装置、線路と地盤の状態も、線路が横方向の力にどれだけ耐え得るかを左右する。

だから、「レールが熱い」ことと「線路が不安定」なことは区別する必要がある。線路全体に十分な余力があれば、レールの温度が高くても安全に運行できる。

──これはイギリス特有の問題なのか。もっと暑い国は、もっとうまく対処しているのか。

イギリスの鉄道施設が「間違った」気温を想定して設計されたわけではない。熱による膨張と収縮は考慮されてきたが、気候そのものの変化という根本的な問題が出てきた。

従来、設計や運行計画で想定する極端な気温は、非常な高温がまれだった時代の気候を反映していた。今では熱波の頻度が増え、既存の設備の多くがこれまでほとんど経験しなかったほどの高温にさらされている。

暑さが原因の脱線事故は既に起きている。2015年には、その年、その時点までで最も暑かった日に、リンカンシャー州ラングワース近郊で貨物列車が脱線した。調査で熱による線路の張り出しが確認された。

今では、かつてないほどの高温に伴う危険への対応が求められている。イギリスで初めて40度を超え、現在まで観測史上最も暑い日である22年7月19日には、ロンドン、イングランド北部、スコットランドを結ぶ主要路線の1つが運休した。線路の張り出しに列車が遭遇する危険を避けるため、最も暑い時間帯の運行を予防的に止めたのだ。

鉄道は線路の位置に厳しい制約がある。車輪とレールが接する部分は極めて高い精度が必要なため、線路はわずかでも横にずれてはいけない。同じ天候にさらされる隣接した線路でも、過去にレールに加わった力、バラストや締結装置の状態、線路の形状、下の地盤によって、張り出しへの耐性は大きく異なることがある。

暑い国から取り入れられる「耐熱型」の鉄道技術などというものはない。そうした国は高温を通常の条件として扱い、それに合わせて線路を設計・保守し、運行している。イギリスも設計上の想定や保守の方法を、これから直面する気候に合わせる必要がある。

──本当に気候変動に耐えられる鉄道には何が必要か。

最も重要なのは、問題が起きてから対処するのではなく、あらかじめ危険を予測して対応する態勢への転換だ。

次世代の鉄道管理では天候と日射量の予報、実際のレール温度、線路の形状、過去にレールに加わった力、バラストや締結装置、排水、地盤や盛り土の状態などを総合的に把握すべきだ。そうすれば路線全体に一様にリスクがあると考えるのではなく、危険な区間を細かく特定できる。

新しい技術も大きな役割を果たすはずだ。遠隔センサーや最新のデータ分析、デジタルツイン(現実空間の情報を集めて、サイバー空間に「双子」のように再現するシステム)を使えば、危険な状態になる前に限界に近づいた区間を見つけられる。

本当に気候変動に強い鉄道は、レールを頑丈にすれば実現するものではない。高温で乾燥した天候が続くと、地中の水分量が変わって盛り土などにも影響が出る。その間もレール自体には熱応力が蓄積する。従って線路だけでなく、排水設備や信号・電力システムも含めて一体として対策を講じる必要がある。

──将来の熱波を見据えて、新しい線路を設計したり、古い線路を改修したりすべきなのか。

鉄道施設の寿命は非常に長い。いま建設したり大規模に更新したりする線路や橋、盛り土は50年後、100年後にも使われている可能性がある。その間も気候は変わり続ける。考えるべきなのは「この新しい設備は、使用期間を通じてどのような気候に耐えればいいのか」という点だ。

新しい施設については、今世紀半ばから後半にかけての気候予測を設計に取り入れるべきだ。ただし、あらゆる部品を2100年に想定される極端な気温に耐えられるようにすべきだとは思わない。何十年も起きないかもしれない条件のために、莫大な投資をすることになりかねない。

リスクの大きさに応じて調整するべきだ。新しい施設には当初から必要な耐性を持たせる。既存路線については、将来の気候によってリスクが許容範囲を超える区間を特定し、順次改修する。具体策はそれぞれの場所の弱点によって異なり、線路の横ずれを防ぐバラストの力を高める、排水や盛り土の安定性を改善する、監視や温度管理を強化するといった方法が考えられる。

The Conversation

Xueyu Geng, Professor in Ground Engineering, University of Warwick

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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