近年広まり始めたパブリック・ヒストリーという考え方も、このように、狭い意味での歴史学研究に留まらず、人々の関心に応える形で歴史的知識を生かし、広く伝えていく仕事が重視されるなか、登場したのだろう。

他方、筆者が日本史に関する公開講座の類に登壇する際、ご来場者の興味の強さ、知識の深さに驚かされることは多い。最近は出版不況だと言うが、日本史に限って言えば、研究者の書いた新書が数十万部売れる場合はある。

また、勤め仕事とは無関係に書かれた日本史の学術論文は珍しくないし、論文は書かないが古文書を読むのは好き、という方も多いはずだ。学問としての日本史とて、専門家以外の人にとっても有益なものでなければ成り立ちえないのは、当然のことである。

そしてそもそも、人間は誰でも、それぞれの在り方で過去についての情報を利用し、未来の行動を判断している。その意味では、「歴史」の活用は、誰かの独占物ではない。


[参考文献]
高木博志『近代天皇制と伝統文化』岩波書店、2024
原田実『江戸しぐさの正体』星海社新書、2014
原田実『江戸しぐさの終焉』星海社新書、2016
馬部隆弘『由緒・偽文書と地域社会』勉誠出版、2019
 

三ツ松誠(Makoto Mitsumatsu)
1982年富山県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科日本文化研究専攻博士課程修了。博士(文学)。著書に『復古の夢 幕末維新期国学思想史』(東京大学出版会、2026年)、『日本近世史入門 ようこそ研究の世界へ!』(共著、勉誠社、2024年)、『維新の衝撃 幕末~明治前期』(共著、春秋社、2020年)など。
 

 
「日本史」の日本史

『「日本史」の日本史 ──江戸から明治の学問と社会』

 三ツ松誠[著]

 ミネルヴァ書房[刊]

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