米連邦準備理事会(FRB)のウォーシュ議長が掲げる「より静かな中央銀行」という方針に対し、同僚たちから反発の声が上がっている。彼らは政策当局者がテレビやポッドキャスト、インタビュー、交流サイト(SNS)、講演などを通じて自らの見解を発信することは職務の重要な一部だと考えているためだ。
実際そうした発信は市場に影響を与えてきた。9月の利上げ後、ウォーシュ氏が今後どこまで追加利上げが必要かについて明確な見解を示さなかった一方で、他のFRBの政策担当者ほぼ全員が計40回余りにわたって公の場で発言。その結果としてトレーダーたちは納得して利上げ観測を後退させた。
ところが、14日に発表された9月の米消費者物価指数(CPI)が前年同月比で3.7%上昇し、市場の金融政策を巡る観測は再び揺さぶられた。現在市場では10月の利上げ実施が五分五分とみられており、異例なほど先行きが不透明な状況にある。こうした状況においてウォーシュ氏が志向する「沈黙」の是非に改めて注目が集まっている。
もっとも、ウォーシュ体制のFRBが最終的にどのような情報発信戦略に落ち着くのかは、なお見通せない。ウォーシュ氏は16日、タイの首都バンコクで開催される国際通貨基金(IMF)年次総会で講演する予定だ。これは2週間足らず後に迫った次回の連邦公開市場委員会(FOMC)を前に、市場の期待形成に影響を与える最後の機会となる。
これまでウォーシュ氏は、ポルトガルのシントラや米ワイオミング州ジャクソンホールでの国際会議、議会証言、さらにFRB本部での記者対応など、あらゆる場面で一貫した主張を展開してきた。それは「政策担当者が金利見通しについて語る機会を減らせば、市場は経済指標そのものを重視するようになり、その結果、市場価格がFRBにとってより有益な情報源になる」という考え方だ。
こうした見解に基づき、ウォーシュ氏はFOMC声明文から将来の政策金利の指針となる「フォワードガイダンス」を極力削減してきた。また長年にわたりFRBの情報発信の柱であった四半期ごとのFOMCメンバーの政策金利見通し分布(ドットチャート)を廃止するよう提言すると予想される作業部会も立ち上げている。
しかし他の政策担当者たちは、良い金融政策を実現する上でコミュニケーションは不可欠だとの理由から、今後も発言を続ける考えを明確にしている。
クリーブランド地区連銀のハマック総裁は12日のロイターのインタビューで「発言を控えることが国民や企業の意思決定や経済理解を助け、さらに中央銀行としての信頼性向上につながるという議論があるなら、ぜひ聞いてみたいと思う。しかしそれを説得力のある形で示すのはとても難しいのではないか」と語った。
<踏み込んだ発言の効果>
もしウォーシュ氏の方針が現実するとなれば、それはFRBが数十年かけて進めてきた情報公開路線を大きく転換することになる。ウォーシュ氏はかつてのアラン・グリーンスパン議長による謎めいた発言スタイルを公然と評価している。
一方で、中銀が政策方針を率直に説明する現在の流れを学術面から支えた米国の経済学者ロバート・ホール氏とマイケル・ウッドフォード氏は今週、2026年のノーベル経済学賞を受賞した。さらにウォーシュ議長が「静かなFRB」構想を打ち出したタイミングは、トランプ政権による金融政策への影響力行使やFRBの独立性への挑戦が続く中で、FRBが説明責任の維持・強化を目指している時期とも重なる。
とりわけニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁とジェファーソンFRB副議長による異例なほど踏み込んだ発言は、利上げ観測の修正に大きな効果を発揮した。
米債券運用大手PIMCOのグローバル経済アドバイザーで元FRB副議長のリチャード・クラリダ氏は「市場はこの3人組のうち2人が非常に一貫したメッセージを発していることを強く意識した」と指摘する。FRB議長、ニューヨーク連銀総裁、副議長の3人は通常、最も影響力の大きい政策担当者とみなされている。
クラリダ氏は自身が副議長だった頃を振り返って「私の役割は議長の考えを市場に伝えることだった」と述べつつも、現在も同様かどうかについては言及を避けた。その上で「今は委員会メンバー全員の発言に耳を傾けるべき時代だ」と語った。
先週トルコで講演したFRBのウォラー理事は、今後必要となる対応について「追加利上げだ」との認識を示しつつ、「利上げは必ずしも連続した会合で行う必要はないが、妥当な期間内には実施されるべきだ」と語った。
ウォラー氏によれば、将来の金利経路を厳密に約束してしまうと、新たな経済情報に応じて政策を柔軟に修正しにくくなる。この点はウォーシュ氏も問題視している。
とはいえウォラー氏は、まったくシグナルを出さない場合には「市場を驚かせ、ボラティリティーを高める恐れがある」と警告した。投資家がFRBの意図と異なる金利経路を織り込めば、経済に対する金融引き締め効果が不十分にも過剰にもなり得るからだ。
ここ数週間ウィリアムズ氏とジェファーソン氏が利上げを急ぐべきでないと公の場で主張した背景にも、こうした懸念があったとみられる。当時の市場は、FRBが9月のドットチャートで示したよりもはるかに積極的な利上げを予想していた。
<コミュニケーションの価値>
同様の状況は8月にも見られたのではないだろうか。ウォーシュ氏はこの時、「インフレには一切妥協しない」と強調したにもかかわらず、7月に金利据え置きを決定した理由について詳細な説明を避けたため、市場では当面の利上げ観測が大きく後退した。
しかし最終的に沈黙を破ったのはウォーシュ氏本人だった。その後同氏は「より静かなFRB」という持論を改めて繰り返しながらも、最近のインフレ鈍化について「明確なトレンドだとはまだ確信していない」と発言。市場に対して「利上げは依然として選択肢に入っている」とのシグナルを送ることになった。
シカゴ地区連銀元総裁のチャールズ・エバンス氏は今週、クリーブランドで開かれたエコノミスト向けの会合で「中銀がどのように目標達成を目指しているのかについて透明性を確保することは重要だ」と力説した。
エバンス氏は07年から09年の金融危機後、景気回復を後押しする目的で非常に強力なフォワードガイダンスを推進した人物として知られる。
一方ウェリントン・マネジメントのマクロ戦略担当ジュヒ・ダワン氏は、ジェファーソン氏とウィリアムズ氏の発言によって「ウォーシュ氏自身が表に立たなくても、そのメッセージは市場に伝わった可能性がある。理想的なコミュニケーションの形を見つけるまで、もう少し時間を与えてもよいと思う」と述べた。
ダワン氏は「ここ数カ月においてFRBが金利見通しの方向性を修正しようとする過程を見れば、コミュニケーションの重要性はむしろより明確になったと言える」と付け加えた。

鉄道黄金期を迎えたヨーロッパを旅する――コリン・ジョイス(ジャーナリスト)/豪快かつ特異なアメリカ大陸鉄道史/膨張する中国鉄路の野望/「夢の超特急」リニアの現実/韓国、アフリカ、インド……世界を駆ける鉄道新事情