Gabriel Stargardter Leigh Thomas

[パリ 9日 ロイター] - クレマンス・レミさんは2020年、フランス西部の都市ナントに移り住み、2人の娘を地元の公立校に入学させた。教師の質には問題がなかったが、教職員のストライキが相次いだことで次第に不満が募り、最終的に娘たちを私立校に転校させた。

公立校を巡るこうした懸念は、フランスで数十年ぶりとなる大規模な抗議デモが広がる一因となっている。抗議は先月、パリ北部の低所得地域の高校で始まった。教員の欠勤や施設老朽化への怒りは、不平等や公共支出不足、教育水準低下に抗議する全国運動へ発展した。

フランスの公立校は長年、共和主義の理念を体現する場とされ、富裕層と貧困層の子どもがともに質の高い教育を受け、「自由、平等、友愛」の価値観を学んできた。

しかし、公教育の学力水準は長年低下傾向にあり、政府は歯止めをかけられずにいる。巨額の年金支出と財政再建の必要性で、政策の選択肢が限られているためだ。このため、裕福な家庭で私立校を選ぶ動きが広がっている。レミさんによると、左派色の強いナントの学校ではストが直前に発表されることが多く、たびたび仕事を休まざるを得なかった。

「学校は安心して頼れる制度であるべきだが、結局は頼れないと分かる」と話した。

<年金支出が予算を圧迫>

経済協力開発機構(OECD)が公表した2025年の「学習到達度調査(PISA)」の結果によると、フランスの15歳の生徒の数学と読解の能力は03年以降、大幅に低下し、OECD平均を大きく下回る過去最低水準に落ち込んだ。

フランスの公立中等学校では2024-25年度に、授業時間の約10パーセントで教員を確保できなかった。週当たりでは、ほぼ半日分の授業に相当する。このうち4分の3は欠勤した教員の代替要員を確保できないのが原因だった。

政府系金融機関である預金供託公庫傘下の投資部門、バンク・デ・テリトワールの25年の報告書によると、フランスの学校施設の10-20%は「状態が著しく劣化」している。

専門家らは、政府が教育の低迷を反転させられない理由の一つに、年金支出の増加が他の政策分野に回す財源を奪っていることを挙げる。フランスの27年の教育予算は640億ユーロ(約11兆3976億円)となる見通しで、教員の年金費用を加えると、コストはさらに28%増える。

ロイターがユーロスタット(EU統計局)のデータを基に算出したところ、フランスの年金支出総額は来年、4360億ユーロ、国内総生産(GDP)の14%に達する見込み。年金支出は過去20年間、他の全ての政府支出項目を上回るペースで増加する一方、教育支出の比重は低下してきた。

年金支出の着実な増加は、高齢化だけが理由ではない。背景には、年金受給開始年齢の引き上げや年金給付の削減に対する有権者の反発もある。

仏シンクタンクの企業研究所のエコノミスト、エルワン・ティソン氏は、年金支出が教育予算を圧迫していると指摘。その結果、フランスでは若手教員の給与がOECD平均を下回っており、これが不満やストライキにつながっているという。

ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン氏は8日、ニュースレター配信サービス「サブスタック」への投稿で、「フランスは実質的に、他の国民の負担によって高齢者に巨額の補助金を与えている。全国規模で学生の大規模な抗議デモが起きても、何ら不思議ではない」と述べた。

<富裕層は公立から私立へ移行>

フランスの私立校の大半は、国と契約を結ぶ「契約校」として運営されている。契約校のほとんどはカトリック系。公的支援を受け、公立校と同じカリキュラムを提供する一方、教員採用や入学者選考では公立校より大きな裁量を持つ。教員の給与は国が負担し、授業以外の費用は保護者が支払う。代替教員を確保しやすく、ストや欠勤の影響を受けにくい。

会計検査院が23年に公表した報告書によると、フランスでは7500校を超える契約校に200万人以上、全生徒の17.6%の子どもが通っている。契約校に通う生徒の割合は2011年から21年にかけて緩やかに上昇した。

また、契約校では裕福な家庭の子どもの割合が増える一方、貧しい家庭の子どもの割合は低下。地元の公立校を避けるために私立へ移った家庭や、学校の安全性や教員の欠勤を懸念した家庭もあったという。

契約校に通う生徒のうち、「非常に恵まれた」家庭の出身者の割合は、2000年の26.4%から21年には40.2%に上昇。現在、契約校の生徒の半数超は「恵まれた」または「非常に恵まれた」家庭の出身であるのに対し、公立校ではその割合は3分の1未満にとどまる。

ルクセンブルク大学の社会学者、ルイ・ショベル氏は「50年前、教育熱心な家庭は公立校を目指した。今では、子どもの可能性を最大限伸ばすには私立校が有利とみられることが多い」と話す。

カトリック系私立校の保護者団体APELの会長、ビルジニー・デュラン氏は、私立校家庭が必ずしも裕福とは限らず、学費のため大きな犠牲を払う保護者も多いと説明。一方で、特定地域で裕福な生徒が集中する傾向は認めた。

レミさんが暮らすナントは、契約校が多い地域の一つで、生徒の38%が私立校に通っている。レミさんは、子ども1人当たり月191ユーロ(約214ドル)の学費を支払っている。私立校は誰もが利用できるわけではなく、裕福な家庭の子どもばかりになる恐れがあることも認識している。それでも、転校させたことを後悔していない。「少なくとも、子どもたちが努力し、より良い結果を目指すよう促される環境を提供してくれると思う」と話した。

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