Yasmeen Abutaleb Simon Lewis Ammu Kannampilly Emma Farge

[ワシントン/ナイロビ 6日 ロイター] - 中央アフリカのコンゴ(旧ザイール)の鉱山街で今年5月、エボラ出血熱に感染した可能性があることに気づいた米国人医師パトリック・ラロシェル氏(46)は、速やかに本国へ搬送されて治療を受けられると考えていた。前回2018年の流行時も、同様の対応があったからだ。

今回も、全米に13カ所ある最先端の高度治療施設のうち少なくとも3カ所が、ラロシェル医師と、感染が確認されていた米国人の同僚ピーター・スタッフォード医師の受け入れに同意していた。

だが、その計画は突如変更された。

米政府高官によると、コンゴで自国民がエボラウイルスに暴露したとの報告を受けたホワイトハウスは「治療目的であっても帰国は一切認めない」という明確な通達を出したという。

この「水際で拒絶する」決定は、長年積み重ねてきた巨額の投資と準備を水泡に帰すものだ。現職・元政府高官や米医療従事者、公衆衛生・法律の専門家ら50人以上の証言によれば、米国のエボラ対策は感染拡大の防止ではなく国境管理を優先する姿勢へと舵を切ったという。

トランプ政権は本国への搬送を拒む代わりに、ケニアのライキピア空軍基地で50床規模の米国人向け隔離施設を建設した。さらに7月には水際対策を一段と強化し、過去21日以内にコンゴ滞在歴のある米国市民と米国籍保持者が民間航空便で米国に入国することを制限する「搭乗禁止命令」を発令した。

「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」に基づく国境封鎖方針の波紋は、過去最速のペースで拡大し4000人以上の死者を出している今回のエボラ危機に深刻な影響を及ぼしている。

取材に応じた19人によると、現地で感染しても本国で治療を受けられないという懸念や、21日間の隔離義務が大きな壁となり、派遣に応じる米国人医療ボランティアが激減。その結果、現地医師の負担が急増し、支援体制全体の弱体化を招いている。

トランプ大統領による米国際開発局(USAID)の解体や世界保健機関(WHO)脱退の影響で、カリフォルニア州の約6倍の国土を持つコンゴでは医薬品や資機材の調達網がまひし、医療活動に大きな支障が出ている。

医療宣教師であるラロシェル医師は、チェコの首都プラハにある隔離施設へ搬送されたが、幸い感染はしていなかった。ドイツへ搬送されたスタッフォード医師は治療を受けて回復した。2人とも米国政府の手配や現地の医療には感謝しつつも、母国へ帰還させてもらえなかったことには深い落胆を隠さない。

「医学的なリスクを正しく評価した判断というより、恐怖心や世間の目を意識した政治的パフォーマンスにすぎないように思える」。ラロシェル医師はそう語った。同医師は看護師の妻、3人の子どもとコンゴで11年間暮らしてきた。「決定は場当たり的で、その場の思いつきで下されたように感じた。このような状況に追い込まれ、情けなさと怒りすら覚える」と胸中を明かした。

一方スタッフォード医師は、現地での移動や手続きが難航し、搬送が何度も遅れた。当初は米軍病院に運ばれるものだと思い込んでいたが、実際に収容されたのはベルリンのシャリテ大学病院だった。

「見捨てられたようなショックと悲しみを感じた。やはり母国で治療を受けたかった」とスタッフォード医師は振り返った。

<待機命令という壁>

これまで米国はエボラ出血熱の流行に際し、現地やWHO、アフリカ疾病予防管理センターと連携し、支援において主導的役割を果たしてきた。米保健福祉省(HHS)も感染の追跡や治療に奔走し、ワクチンの迅速な開発に巨費を投じるとともに、病に倒れた自国民を感染地域から本国へ送還して手厚く治療してきた歴史がある。

ところが、ワクチン懐疑派として知られるロバート・ケネディ・ジュニア厚生長官は今回、この問題にほとんど関心を示していない。年間1兆8000億ドル(約285兆円)という巨額予算を握りながら、エボラウイルスの「ブンディブギョ株」に対応するワクチン開発への資金や人員の投入に消極的な姿勢をとっている。

その代わりに米国務省は、パンデミックや流行病に対するワクチン開発を支援するため2016年に設立された国際パートナーシップ「感染症流行対策イノベーション連合」(CEPI)に5000万ドルを拠出した。同連合はブンディブギョ株のワクチン研究に1億ドルを割り当てているものの、コンゴでの大規模な臨床試験の実施にはさらに1億2800万ドルが不足しているという。

ケネディ氏は25年の就任以来、史上最大規模となるはしかの流行があったにもかかわらず、感染症対策の重要性を軽視し続けてきた。米疾病対策センター(CDC)や食品医薬品局(FDA)、国立衛生研究所(NIH)でワクチンや感染症の専門家を含む数千人の職員を解雇し、ワクチンの安全性を疑問視する独自施策に注力している。

保健福祉省報道官のエミリー・ヒリアード氏は「米国のエボラ対応を巡る評価は、HHSやCDCが本国およびアフリカ現地で主導している広範な取り組みを見落としている。国内へのウイルス侵入を防ぐことと、発生源で流行を抑え込むことの双方が不可欠だ」と反論。HHSは6月に臨床試験で使用するため、感染地域へ実験段階の薬剤を送付したと強調した。

だが事情に詳しい関係者2人によると、5月に今回の流行が確認されてから数週間の間、ケネディ氏が正式な状況報告を受けることはなかったという。ヒリアード氏は、長官は専門家から定期的に報告を受けており、対応に精力的に関与していると主張している。

過去2番目の規模となった今回の流行でケネディ氏の存在感が薄い中、主導権を握ったのはルビオ国務長官だった。初期段階ではミラー大統領次席補佐官の率いるチームが舞台裏で徹底した水際対策を推進した。

公衆衛生の専門家らは、国内へのウイルス持ち込み防止という目標自体は理解できるとしつつも、21日間の隔離政策が人手不足と現地スタッフの士気低下を招いていると指摘する。

「今回の措置は非常につらく、意気消沈させるものだ。命がけで世界中からエボラとの闘いに赴いている医療従事者らは英雄として扱われるべきだ」と、米国のキリスト教系支援団体「サマリタンズ・パース」のフランクリン・グラハム最高経営責任者(CEO)は語った。

グラハム氏によると、コンゴにある同団体のエボラ治療センターのスタッフのうち、以前は8割を占めていた米国人が、現在は約2割まで減少。通常1カ月の任期で働く医療専門家の派遣費用は、検疫政策の影響で2倍以上に跳ね上がったという。

「感染拡大を止める最善策は、十分な訓練を受けた医療のプロを可能な限り多く感染拡大の中心地に送り込むことだ。しかし、検疫要件によって極めて困難になっている」とグラハム氏は訴えた。

推定約7000万ドルをかけてケニアに建設された米国人専用施設は現在利用者がおらず、これまでもわずか7人しか利用していない。空調設備、米スペースXの衛星通信サービス「スターリンク」のWi-Fi、食事提供システムを備えた大型テントや輸送用コンテナ、そして100人以上の職員が、米国人利用者のないまま待機し続けている。

対応に当たる国務省高官は「何よりも優先すべきなのは、国内に感染者を1人も入れないことだ」と断言した。

一方、WHOは「具体的な証拠がない限り、米国の政策が及ぼす全体的な影響を評価することはできない」とした上で、救援要員の派遣や確保を困難にするような措置は対応の遅れを招く恐れがあると述べた。さらに、資金提供の打ち切りやサプライチェーンの混乱が、対応を複雑化させているとも指摘した。

WHOのアフリカ地域緊急対応の責任者であるマリー・ロゼリン・ベリゼール博士は声明で「最も重要な作業は、感染地域での早期の症例発見、濃厚接触者の追跡、安全な医療の提供、そして医療従事者の保護だ。国際的な措置は、迅速な人材や物資の移動を含め、現場の活動を支援するものでなければならない」と述べた。

法律の専門家3人は、米国の措置の一部は法廷で争われた場合、維持されない可能性が高く、数十年にわたる先例に反すると指摘した。トランプ政権が新型コロナ禍で移動制限を実施した際も、自国民が帰国する権利まで奪うことはなかった。

米ジョージタウン大学ローセンターのローレンス・ゴスティン教授は「過去のどの政権も、医療監視や治療のために自国民を本国へ帰還させてきた。自国に戻る権利は、国民固有の権利だ」と話した。

<猛烈な勢いの感染拡大>

国際的な感染対策において米国の存在感が薄れる中、現地では紛争の混乱に乗じるように感染が急拡大している。今回流行しているブンディブギョ株は、14年の西アフリカでの流行後にワクチンや治療薬が開発された有名なザイール株とは異なる種類だ。

米CDCによると、今年5月に流行が確認されてから139日目に当たる9月29日時点で、コンゴ国内の確定症例は8224件に達した。同じ日数の時点で比べると、14年の西アフリカでの流行では1766件、18年のコンゴでの流行ではわずか543件であり、今回のペースの速さは際立っている。

コンゴで17回目となる今回の流行への対応は、医療従事者への暴力、個人用防護具の不足、誤情報の拡散など多数の悪条件が重なり、難航している。CDCは、より強力な対策が講じられなければ、死者数は14年の1万1308人を超える恐れがあると警告する。

流行が始まった北東部イトゥリ州では感染の伸びがやや鈍化しているものの、他の地域ではブンディブギョ株が猛威を振るい続けている。

南アフリカの著名な疫学者でアフリカCDC緊急委員会の議長を務めるサリム・アブドゥール・カリム氏は、米国の支援縮小がもたらした打撃は極めて大きいと訴えた。7月にイトゥリ州の州都ブニアを訪れた同氏は「従来、物資の調達や輸送といった領域は米国のUSAIDが主導してきた。トラックや運転手、倉庫を迅速に手配し、必要な物資を現地に届ける能力に長けていた」と指摘する。

カリム氏によれば、現場でエボラと闘う団体は米国の支援が縮小する中で活動を続けているものの、深刻な資金不足に苦しんでいるという。「巨額の資金がないため、身動きが取れない状態だ」

米国務省の監視機関、監察総監室(OIG)が7月に公表した報告書によると、USAIDから業務を引き継いだ国務省の新設部門には、要請された人員の3分の1しか配置されていない。地域の保健安全保障の拠点であるウガンダでは、以前在籍していた5人のうち1人しか残っていないという。

これに対し国務省は、グローバルヘルスや海外の災害・人道支援のために割り当てられた既存の予算から、主に非政府組織(NGO)による医療施設の運営や物資の調達向けに7億8000万ドルを拠出していると説明。これは単一の国としては最大の支援額だと反論した。

ホワイトハウス側も、エボラ予防・発見やケニアの治療キャンプ、患者の搬送費用を含む14億ドルの追加予算を要求しているが、議会で補正予算案の審議が難航しているのが実情だ。一方、CDCは国内および海外での感染対応に使用可能な緊急資金1億1300万ドルを確保していると発表した。

司令塔としてのCDCの存在感は薄れているものの、現場での人員配置は14年当時と同水準を維持している。コンゴやウガンダでは120人以上のスタッフが感染監視、接触者追跡、検査、その他の指導や研修を行っているという。

<渡航をためらう米国のボランティア>

米国およびコンゴ当局者によると、21日間の待機措置は、米国人ボランティアにとって事実上の「罰則」となっており、多くの人が現地入りに二の足を踏む原因になっている。

7月にコンゴでサマリタンズ・パースの救援活動に参加した米国人女性看護師(31)にとって、ケニアの施設で過ごした21日間の待機生活は精神的に非常に厳しい体験だった。再び現地に戻るべきか決めかねており、待機措置が大きな障壁になっているという。

この看護師によると、多くの友人が赴任を希望しているものの、待機措置のために断念せざるを得ない状況だという。コンゴの人々を助けることは信仰に基づく使命であり、彼らを置き去りにするのは「胸が張り裂けるような思い」だと彼女は語った。

19年の流行時、当時のトランプ政権のアザー厚生長官は自らコンゴに飛び、人員と医薬品に重点を置いた積極的な支援を展開した。14年の流行時には当時のオバマ大統領が「米国民を守る最善策は、西アフリカでウイルスを封じ込めることだ」と宣言し、約3000人の米軍部隊を派遣して対応に当たった。この際、米国本土で11人が治療を受け、2人が死亡した。

米国は当時、流行地域から帰国した医療従事者や、その他のまれな感染症にさらされた米国人に対し、より適切な治療を提供できるよう、数億ドルを投じて最新鋭の高度隔離治療施設を建設した経緯がある。

だが、ケニアの施設と同様、米国内の隔離治療施設にもエボラ患者の姿はない。フロリダ州の弁護士ベンジャミン・マーティン氏は、娘が7月に看護師としてコンゴに渡航した際の体験を語った。

娘は帰国のため首都キンシャサで飛行機に乗ろうとした際に制止され、コンゴ当局から隔離を求められた。現地のホテルで11日間過ごした後、彼女は欧州でさらに21日間の隔離生活を余儀なくされたという。

「自分の国から『帰ってくるな』と言われたようなもので、娘にとっては本当につらい体験だったようだ」とマーティン氏は話した。「その時、娘は真顔でこう漏らした。『自分の国に見捨てられたような気がする』と」

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