Altman氏は安保理で、正確で迅速なインシデント報告、分類と報告の手順が必要だと訴え、CNNによればAmodei氏もAIのセキュリティ・インシデントを通知する仕組みを提案した。提案としてはもっともだ。だが、その仕組みが整うまでは、被害を受けた側や政府、報道が先に明らかにする場合を除けば、どの事故をいつ出すかは提案者たち自身の手の内にある。
先行企業が規制強化を口にする意味
私は、AIをめぐる規制論にも、多くの産業で見られてきたパターンが重なっていると感じている。先に市場を獲得した企業が、法規制が手薄なうちにやるだけやって、その後で規制強化を主張するというパターンだ。
規制は一見すると企業の成長を妨げるように思える。しかし、参入障壁(新たに市場へ入ろうとする企業を妨げる条件)を高くし、一定の市場を獲得していない後発企業の活動を制限する効果を持ちうる。企業だけではない。主権AI(Sovereign AI。国家が自国で開発し管理するAI)の開発すら抑制しうる。
あくまでも可能性として述べるが、このパターンは現在のAnthropicとOpenAIの言動をうまく説明できる。なお、Altman氏は安保理で、AIの標準は既存企業の地位を固定化(lock in incumbents)せず、新規参入者も支えるべきだと述べ、発言の上ではこれを否定している。
AnthropicのAmodei氏は生物兵器を作るためのAI利用の禁止のような狭い合意を提案した。しかし、その一方でAnthropicがAIによる創薬の取り組みを強めるなかで、サンフランシスコのベイエリアにウェットラボ(コンピュータ上の計算ではなく、実際の生物学の実験を行う施設)を開設していたことを、Reutersが2026年9月18日に報じている。Anthropicのライフサイエンス責任者は存在を認めた。
同社の広報担当者はこのラボが「創薬に特化したものではない」(not for drug discovery specifically)と説明し、詳細は明かさなかった。
OpenAIは2026年8月10日、サイバーセキュリティ専用モデルGPT-5.6-Cyberを発表した。承認を受けた個人や組織に限って提供されるが、ゼロデイ脆弱性の発見などの能力を高め、「一部のより高リスクで、攻撃にも防御にも使える」(certain higher-risk, dual-use)サイバー作業への拒否を減らすよう訓練されている。
同社自身、安全対策を弱めた状態で動かすモデルには、悪用や、開発者の意図から外れた動作による、通常の利用を超えるリスクがあると認めている。
9月3日には、自社のサイバー防御向けモデルの補助付き提供、訓練、技術支援などに、今後6か月をめどに10億ドルを充てる取り組みを打ち出した。そのうえで、今後数か月でAIを使ったサイバー攻撃ははるかに広がり高度化すると警告した。
脅威を感じている立場と、これらの行動は矛盾するように見える。しかし「規制ができる前に、先行してやるだけやっておく」と考えれば、自然な行動として説明がつく。もちろん一つの解釈であり、両社の意図を示す証拠があるわけではない。