なぜ深刻な被害ほど「見えなくなる」のか

また、「透明化」の要因として、著者は「スティグマ」を挙げている。著者はトラウマの専門家から「いじめ被害は性被害に似ている」と指摘されたことがあるそうだが、その理由はまさに「スティグマ」だったのだという。

とりわけ被害者は「セルフスティグマ」を抱きやすいだけに、世間からの批判を恐れ、いじめ被害を訴えることがいっそう困難となるのだ。ただし「後遺症」の指摘そのものがスティグマ化につながるおそれがあるため、「後遺症はあり得るが決して必然的に生ずるものではなく、いじめ被害を自然に克服する人も決して少なくない」こと、そして「後遺症が残るかどうかを決めるのはメンタルの強さではなく、ほとんど『運』である」ことの2点が付け加えられている。

 私はこれまで、ひきこもり事例において、いじめ被害によりPTSDを発症した事例を少なからず経験してきた。重篤な事例では、いじめ被害から10年以上を経ていても、「再体験(いじめられる悪夢、いじめシーンのフラッシュバック)」「回避(ひきこもり、学生集団への恐怖)」「過覚醒(不眠、易刺激性)」といった、PTSDの主要な症状がしばしばみられていた。易刺激性はしばしば他者への激しい攻撃性や、家庭内暴力をもたらし、著しく低下した自己価値感情は自傷、希死念慮、自殺企図につながりやすい。(72ページより)

なお著者は2021年に発足した「旭川市いじめ問題再調査委員会」の委員として、調査と報告書(2024年)の作成に関わったのだという。それが本書を書くきっかけになったというだけあって、後半はその大半がこの事件に割かれている。初めて知ることも少なくないだけに身につまされるが、いじめ後遺症の根の深さを感じずにはいられない。

『いじめ後遺症』

 『いじめ後遺症』

  斎藤 環・著
  岩波新書

 

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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。他に、ライフハッカー[日本版]、東洋経済オンライン、サライ.jpなどで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『この世界の中心は、中央線なのかもしれない。』(辰巳出版)など著作多数。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

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