Gram Slattery
[ワシントン 13日 ロイター] - 最初から、何かが不自然だった。
7月にトルコの首都アンカラで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の閉幕間際、トランプ米大統領は自身の交流サイト(SNS)トゥルース・ソーシャルに帰国時の搭乗機を変更すると投稿した。昨年カタールから贈られた新しい大統領専用機「エアフォースワン」でアンカラに到着したが、その機体では帰国しないというのだ。
投稿でトランプ氏は、新型機は兵士が見学できるよう、一足先に英国のミルデンホール米空軍基地へ向かわせたと説明。自身はミルデンホールに旧型のエアフォースワンで飛ぶと記す一方、最終的にどの機体でワシントンに帰るかは明らかにしなかった。
私はトランプ氏に同行する記者団の一員として旅に加わっていた。
旅程の変更は不可解で、トランプ氏の説明は説得力に欠けるように思えた。疑問を感じた記者同士の会話は次第に、イランが具体的な大統領暗殺計画を企てたのではないか、という話題に変わっていった。当初、われわれの正確な旅程も謎に包まれていたが、英国に立ち寄った後は、当初の予定通りワシントンへ向かうものと思っていた。
安全上の懸念があるという当初の直感が正しければ、一定の安全機能を欠くことで知られるカタール提供の機体は基準を満たさない可能性があった。それならホワイトハウスが機体を変更したがった理由も説明がつくし、われわれが通常よりもはるかに危険な飛行に臨むことを意味していた。
トランプ氏は7月8日の首脳会議最終日、潜在的な脅威を巡る臆測を招いていた。シリアのシャラア暫定大統領からウクライナのゼレンスキー大統領に至る世界の指導者と会談する中で、同氏は記者団に対し、自身を殺害するイランの長年の企てについて繰り返し言及していた。
トルコを離れる直前の記者会見で、トランプ氏が機体変更に関する質問の大半をかわしたことで、通常とは異なる事態だとの見方は一段と強まった。
われわれが、大統領が乗っていると信じていた機体に乗り込むと、ホワイトハウスのスタッフから窓のシェードを閉めるよう指示された。理由を尋ねると、シークレットサービス(大統領護衛隊)からの要請だという。
これまでにも大統領専用機に搭乗した経験から、私はこうした要求が異例だと分かっていた。何か機密の防衛技術を隠すための試みだろうか。
われわれが真相を知ったのは数週間後だった。シェードを閉めよとの指示は、安全上の懸念を理由にトランプ氏が機内食搬送用トラックを使って機体を離れ、別の政府専用機に乗り込む秘密作戦を隠すためだった。
エアフォースワンの機内では、真相をつかむのが驚くほど難しい場合がある。セキュリティー上の理由から、記者団はWi−Fiにアクセスできない。ホワイトハウスの職員との接触は通常、「ラングラー」と呼ばれる実務担当者に限られており、こうした担当者らは機密情報に接する権限や、それを共有する権限を持たないことが多い。
アンカラからミルデンホールへの飛行は平穏だったが、気を緩めることはできなかった。大統領がいつ現れてもおかしくないと考えていたし、飛行の状況は謎に包まれたままだった。
トランプ氏が機内で記者団とのやり取りに応じなかった理由は今では明らかだ。ただ、同氏はエアフォースワンで記者団に話さないことも多く、当時は不在をさほど気に留めなかった。
しかし夜遅くに英国に着陸すると、行程はさらに異例の展開を見せた。
機体を降りると、トランプ氏が同じ機体の別の場所から降りてくるのが見えた。今思えば、精巧な偽装工作だ。
続いてホワイトハウスの職員は、カタール提供の大統領搭乗機へ徒歩で移動するトランプ氏についていくよう、われわれに求めた。その機体は、我々が降りたばかりの航空機の数百メートル前方に駐機していた。シークレットサービスの要員が大統領の脇を固め、我々の右側を黒い政府用SUV(スポーツタイプ多目的車)がゆっくりと前進していた。
ホワイトハウス担当記者としてこれまで目にしたことのないその動きを見て、目的が分からなかったこともあり、演出めいて映画的だと感じた。
新しい機体に乗り込んで離陸した後、ホワイトハウスの職員が記者団にトランプ氏のトゥルース・ソーシャルの投稿を印刷した用紙を配った。投稿には、カタール提供の機体の前に集まった兵士らとその家族の薄暗い写真が添えられていた。
投稿でトランプ氏は、機体を見たいという要望が基地の全員からあったと説明。ミルデンホールへの立ち寄りはアンカラからワシントンへの標準的な飛行ルートから「実質的にほとんど迂回を伴わない」と述べていた。
その直後、大統領が記者団のキャビンを訪れたため、我々はカタール提供の機体で英国へ向かわなかった本当の理由について矢継ぎ早に質問を浴びせた。トランプ氏が我々と同じ機体でミルデンホールに移動しておらず、第3の機体が関与していたことが判明するのは、さらに1カ月も先のことだ。
機内でトランプ氏は、安全上の懸念が理由であることを否定した。しかし、なぜ窓のシェードを閉めなければならなかったのかと私が問うと、イランからの執拗な脅威に直面していると認め、我々にこう言った。「だが、私が死ぬときは君たちも一緒だ。そうだろう。いつの日か、君たちは職業を変えたくなるかもしれないね」