Layli Foroudi Alvise Armellini Amina Ismail
[オルレアン(フランス)/ローマ/ブリュッセル 7日 ロイター] - フランスが猛暑に見舞われ、屋外の気温が摂氏37度を超えたある日。受刑者のマヌさん(29)は、窓格子に濡れたタオルを掛けた独房で、視察に訪れた政治家に対し、熱波に襲われた刑務所で暮らすことがどのようなものかを説明していた。
2014年に開設された比較的新しいオルレアン・サラン刑務所で、マヌさんはほとんどの日をベッドの上で過ごし、できるだけ体を動かさないようにしている。「結局は精神的に耐えるしかない」と打ち明けた。
ロイターはこの7月の視察に同行したほか、フランス、イタリア、ベルギーで受刑者、人権活動家、刑務所長、医師、労働組合関係者ら40人余りに取材した。その多くが言及したのが、この夏の熱波が改めて浮き彫りにした刑務所の過密収容や施設の老朽化という根本的な問題だ。
<過密収容との闘い>
フランスの刑務所監察官のトップ、ドミニク・シモノ氏の話では、6月に深刻な熱波が襲来した際、収容者からの苦情が同氏の独立監察機関に殺到した。その数は非常に多く、対応のために新たな職員を1人採用しなければならなかったという。
シモノ氏は「われわれでさえ自宅で息苦しさを感じているのに、受刑者は、冷房もなく、暑さ対策が十分でない古い建物の中で、わずか9平方メートルの独房に3人から4人収容されている。暑さは耐え難い」と語る。
オルレアンの南にあるリモージュ市の刑務所では別の受刑者が弁護士と母親に対して、7月8日未明にトイレへ向かおうとした際に暑さで意識を失い、転倒して頭を切ったと話したという。
一方で刑務官組合の関係者はロイターに、同じく暑さに関連する事故ではあるものの、その受刑者は新鮮な空気を求めて窓へ登ろうとして足を滑らせたと説明した。匿名を希望したこの受刑者本人にロイターは取材しておらず、いずれの説明も独自には確認できなかった。
受刑者の弁護士チャーリー・サルカザノフ氏はより詳しい状況を把握するため、刑務所側に医療記録の提供を求めている。「当局が目を覚まさない限り、このようなことは何度でも繰り返されるだろう」と述べた。
リモージュの刑務所を管轄するボルドー地域刑務所当局は、この個別案件についてコメントを避けた。ただ熱波対策としてシャワーや水へのアクセスを増やしたほか、受刑者が扇風機や日焼け止めを購入できるようにしていると明らかにした。
フランス司法省も全国の刑務所で追加のシャワーの機会と日焼け止めを提供し、水へのアクセスを拡大したとしている。同省報道官のサシャ・ストローブ=カーン氏は6月下旬に「中長期的には、熱波による問題をさらに深刻化させている刑務所の過密収容そのものと闘わなければならない」と述べた。
<イタリアで活動家が刑務所視察>
政府統計によると、フランスの刑務所の収容率は7月1日時点で平均141.3%に達していた。イタリアでは7月下旬時点で139.7%、ベルギーでも8月時点で121%となっている。
ベルギーの刑務所監視機関「CCSP」によれば、同国の受刑者のおよそ半数が精神疾患を抱えている。またフランスでも公的資金による2件の研究で、受刑者の約3分の2が入所時点で精神疾患または依存症の問題を抱えていることが明らかになった。
これらの研究を主導したトマ・フォベ氏は「こうした人々は極端な高温にさらされた際、特に脆弱な立場に置かれる」と指摘する。
7月14日にはイタリアの複数の受刑者支援団体が連携し、国内34か所の刑務所で同時視察を実施した。目的は、非人道的だと考える収容環境への社会的関心を高めることだ。
首都ローマのレジーナ・チェリ刑務所前で、受刑者権利団体「アンティゴネ」の代表パトリツィオ・ゴンネッラ氏は「独房に冷蔵庫がないのはおかしい。全ての場所に扇風機が設置されていないのもおかしい」と訴えた。
イタリア司法省は刑務所が夏季用に扇風機や冷蔵庫を購入できるよう80万ユーロ(約1億4606万円)を拠出。年末までに刑務所の収容枠を1万床増やす方針を示している。しかし省のデータによれば、これまでのところ新たな収容スペースはまだ整備されていない。
過密収容を緩和する別の取り組みとして、イタリア議会は7月、薬物依存やアルコール依存の受刑者数千人に対し、更生プログラムを受けることを条件に自宅での刑執行を認める法律を可決した。
南部コゼンツァでは、受刑者権利を監督する国家機関のリッカルド・トゥッリーニ・ビータ氏が、地元刑務所の窓に設置されたアクリル製防護板の撤去を求めた。防護板が換気を妨げていたためだ。先月撤去されたこの板は、携帯電話などの禁制品がドローンで搬入されるのを防ぐため、2021年に設置されたものだった。
同氏は「換気は必須の要素であり、法律でも明確に保障されている」と強調した。
<熱波が高める刑務所内の緊張>
ベルギーのフェルリンデン法相は7月、受刑者に対して飲料水とシャワーの提供を拡充したと発表した。ベルギーで最も古い刑務所の部類に入るヘント刑務所とメルクスプラス刑務所の所長は、熱波の際には受刑者同士の衝突や職員とのトラブルが増え、施設内の緊張が高まると語る。
ヘント刑務所のピーテル・ファン・カーネゲム所長によると、定員260人の施設に対して実際には447人が収容中。「過密収容に起因するあらゆる問題は、熱波が来ると2倍、あるいは10倍も深刻になる」と明かす。
一方メルクスプラス刑務所のセルジュ・ルーマン所長は、3年前から熱波発生時には従来の警備規則を一部緩和し、夜間も独房の窓を開放したり、施設の扉を開けて空気の流れを確保した。その後こうした措置は正式な運用指針にも取り入れられた。
ルーマン氏は単層ガラスの窓や換気設備の不足を挙げながら、問題の根本は建物そのものにあると指摘。「夏の暑さ対策のために刑務所を建設・改修すると公約しても、票にはつながらない。しかしベルギーにおいて刑罰とは自由を奪うことであって、人間として耐え難い環境にさらすことではない」と述べた。