長岡 かつて私のような50代の世代にとって「炭酸」といえば甘いサイダーでしたが、今や日常的に糖分のない炭酸水を飲むライフスタイルが定着しました。
田部井 おかげさまで製品の需要は年20%以上のペースで右肩上がりに伸び続けています。市場の成長スピードに追いつくため、2021年の稼働開始の翌年秋には、製造ラインを倍増させています。
長岡 立ち上げからわずか1年でラインが倍とは、凄まじい成長スピードですね。
田部井 私たちの工場には大きく2つの機能があります。新しいシリンダーを組み立ててガスを充填し、市場へ送り出すこと。そして、お客様から回収した空のガスシリンダーを点検・再利用(リフィル)して再び市場へ戻すサイクルを回すことです。
安定稼働のために突破した、海外とは異なる法規制
長岡 日本国内に製造・循環拠点が存在することで、物流の安定やスピード向上に大きなメリットがありそうですね。
田部井 ソーダストリームは世界45カ国以上で展開していますが、自国内にガスを充填・循環させる工場を持っている国はほんの一部だけなんです。以前はすべての製造を海外に依存していました。国内工場の構想はずっとありましたが、厳しい法規制の壁が立ちはだかっていました。
長岡 日本の高圧ガスや食品に関するレギュレーションは世界的に見ても非常に厳格だと言われます。
田部井 一番の課題は「高圧ガス保安法」でした。すでに稼働実績のある欧州や米国の基準をベースに技術的なプラント計画を立てるのですが、日本の法律体系はそれらと全く異なります。例えば、一般家庭の軒先にあるような、プロパンガスのボンベと全く同じ厳格なテストを求められます。しかし、私たちのシリンダーは1日に何万本という単位で動くものです。既存の法規制の枠組み自体が、家庭用炭酸シリンダーのような循環型製品のスピード感を想定していないというギャップがありました。
長岡 産業用の基準をそのまま一般向けの小さなシリンダーに適用しようとすると、それは現実と合致しませんね。
田部井 私たちは妥協するのではなく、世界標準のデータと他国での莫大な安全実績を一つひとつ国に示していきました。「日本の法律が定める技術基準とは異なるアプローチだが、物理的・科学的にも同等以上の安全性を確保できている」と、経済産業省や高圧ガス保安協会のエンジニアの方々に、何度も説明を重ねたのです。
長岡 ルールのアップデートを民間の側から働きかけていったのですね。さらに今回、国内で新たに「容器再検査場」を立ち上げ、正式に稼働を開始されています。
田部井 シリンダーは法律上、定期的に「再検査」を行う義務があります。民間検査会社に委託することも検討したのですが、既存の業者は大型ボンベを「1日に10〜20本」検査するような体制ですし、1本あたりの検査コストが新品の容器を買うより高くなるような見積もりになってしまいました。それならば、自社で最先端の検査場を作るしかないと決断しました。
長岡 自社検査場となると、また新たな認可や技術の証明が必要になり、膨大な時間がかかるのではないですか。
田部井 周囲からは「国の認可を得て稼働させるまでに、最低でも5年はかかる」と言われました。しかし、それでは現在日本国内で流通しているシリンダーの検査期限に間に合いません。適用用途としてギャップのある国内基準ではなく、欧州で実績のある国際規格(ISO)に基づいた超高速・高精度の検査方法を認めてもらうべく、本社のエンジニアとも連携して2年間、国と議論しました。その結果、5年かかると言われたプロセスを2年でクリアし、この5月末から再検査場の本稼働を開始しています。
長岡 再検査場の稼働によって、ソーダストリームのシリンダーの国内循環スピードは世界基準に追いついたのでしょうか。
田部井 はい。現在、世界にあるソーダストリームの工場のなかでも、私たちの岐阜工場は生産量・稼働率ともにすでにトップ3〜4位に入る規模に成長しています。いわゆる日本型の「カイゼン」による現場の効率化や品質評価の順位でも、グローバルトップクラスの評価を受けています。
120年以上培った技術と、国内投資への注力が結実
長岡 御社はブランドの思想として「使い捨てプラスチックゴミの削減」を強く掲げています。このシリンダーを国内で検査し、何度も再利用し続けるサイクルは、サステナビリティの観点から具体的にどれほどのインパクトがあるのでしょうか。
田部井 工場ができてから昨年までに日本国内で製造・出荷し、お客様に使っていただいたシリンダーによって、使用回避できたペットボトルの総重量を計算してみました。東京スカイツリーの建設に使われた鉄骨の総重量がおよそ3万5000トンなのですが、私たちの製品は、すでにそれを超える重量のペットボトルを地球上から削減する効果を生み出しています。
長岡 スカイツリーの鉄骨を超える量のプラスチックゴミを削減、ですか。それは凄まじい規模感ですね。
田部井 近い未来の目標として、国内の流通量が年間1000万本に達したときには、毎年約3万トン以上の削減効果になります。つまり、「毎年、スカイツリー1本分ずつのプラスチックを削減していく」という規模の貢献度が、目の前に見えている状況です。
長岡 非常に直感的で面白い表現ですね。「毎年スカイツリー1本分を削減していく」。これこそまさに、言葉だけではない真のサステナブルです。
田部井 「自分たちが毎日作っているこのガスシリンダーが、お客様の家庭で使われるだけで、目の前のプラスチックゴミが確実に減っていく」という素朴でシンプルな事実は、工場全員の誇りですね。
長岡 経済安全保障や生活防衛の観点から見ても、国内で容器を無限にリサイクルし、資源を循環させる御社のインフラ投資は、非常に大きな意義を持つと感じます。
田部井 消費者の皆様にとって、ソーダストリームを選ぶことは環境面だけでなく、コスト面でも圧倒的なメリットになります。 私たちのビジネスは、他社が容易に真似できるものではありません。1903年の創業から120年以上の歴史の中で培った技術と、日本市場への並々ならぬ投資のコミットメントがあるからこそ、この強固な国内循環インフラを実現できているのです。
超大国の現在地と「トランプ後」の世界