アメリカの危機以外の危機(人類全体の危機など)については書かれていない

本書はアメリカの危機を切実に感じて書かれているようだが、あくまでアメリカにとってのものに限定される。そのため全人類共通の脅威や危機についてはほとんど触れられていない。たとえば気候変動については全く言及がない。

AIのもたらすリスクについても敵対国がより強力なAIを持たないよう、アメリカが常に先を走るべきと主張しているが、人類全体に対するリスクへの備えには言及がない。アメリカの優位を保つためなら全人類を犠牲にしてもよいということになる。

アメリカ中心という発想にも関係するが、人類全体の課題に対して、世界中の国が同等の立場で協力するという発想は全くなく、アメリカ中心が崩れるなら世界がなくなってもよい(というか、アメリカ中心でなければ世界は終わりと考えているようだ)。

エンジニアの根性については書いてあるが、エンジニアリング的な発想は書かれていない

現在のエンジニアに対して、信念がない、正義がないなどと繰り返し、根性論的な話を書いているが、本書そのものにはエンジニアリング的な発想があまりない。物事を整理、分析し、仮説を立てて検証するようなことはしていない。

社会や政治、経済について言及しているにもかかわらず、それを検証する数値や分析結果はほとんど提示されない。いくつかの事例や逸話をあげるか、きわめて単純な統計数値がいくつか紹介されているだけである。

ああだこうだと社会や政治のあり方について語っているので、モデルを作って仮説を検証したり、Agent-Based Modelling(ABM)でシミュレーションしてもよさそうなものだが、そういう検証は一切していない。

誰でも読めるようにあえて、そうした説明を避けた可能性もあるが、全18章のほぼ全ての冒頭に人文社会系のうんちく話を入れているので、単にエンジニアリング的な発想がなかったのだと思う。

うんちくの内容は、ミツバチの習性とか、ノーベルの生涯とか本題にほとんど関係ない(ちょっとは関係はあるけど、うんちく話がなくても全く問題ない)話で、ただひたすら「読まなきゃよかった感」「買わなきゃよかった感」を増幅させるだけとなっている。

なお、著者の名誉のために申し上げておくと、1章、3章、11章の冒頭はうんちくではなかった。

本書は(偏りのある)人文的な知見に基づいて書かれており、エンジニアリング的な視点はない、と言ってよさそうだ。

本書に書かれていないことから見えてくるアメリカの猛毒
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