
「ダブル・タップ」救急隊を狙う攻撃
ナバティーエ市内に残る3つの病院のうちの1つ、ナジュデ・シャアビエ病院では、通常の3分の1に当たる約90人の医療スタッフが残って対応に当たっていた。
病院長のモナ・アブゼイドは、こう語る。「3月上旬の侵攻開始以降、360人の負傷者と132体の遺体が運び込まれた」
病院の付近には4、5団体ほどの異なる組織の救急部隊が待機しており、連携しながら負傷者を救出したり、患者を搬送したりする。待機する救急隊員の1人が教えてくれた。
「今日は静かだよ」
10日ほど前に訪れた際は15分から1時間おきに爆発音が響き、救急車が猛スピードで出動し、患者を連れて戻ってくるのが繰り返されていた。
しかしこの日は、不気味なほど静かだった。いま思えば、それは、停戦を期待していたレバノンの人たちの思いを、できるだけ大きな衝撃でたたくための心理作戦だったのかもしれない。
4月8日午後2時15分、救助部隊の1つである「ナバティーエ救急」による400人分の食料配給の調理現場を取材していたその時だった。突如、冒頭のように戦闘機が飛来し、攻撃が始まった。
爆音は一度では終わらない。連続して空を切り裂く音と爆発音がズーン、バシャーン、ズーン、バシャーンと5回、6回、7回と響き、目の前に煙が広がるのが見える。配給の準備をしていた隊員たちは音が鳴りやまないなかでも外に出て、被害状況を確認する。
彼らは音で着弾位置をある程度判断できる。それでも今まさに真上に戦闘機がいて、自分たちの上に爆弾が落とされるのではないかという恐怖感がある。
攻撃がいったんやんだと判断すると、救急車が出動する。ただし、「ダブル・タップ」という駆け付けた救急隊を狙った直後の攻撃をイスラエル軍は行う。
この手法はシリアのアサド政権やロシアのウクライナ侵攻などでも用いられてきた。救助者を殺害することで、さらに今後の負傷者や死者を増やし、心理的な恐怖を与えるための作戦だ。