共生細菌による宿主生物の生殖操作は、農業やヒトの疾病予防にも役に立つ技術です。

農業では、天敵農薬(害虫が天敵に捕食されることを利用した生物農薬)の効率的な生産などが期待されています。天敵農薬には、アブラムシを食べるナミテントウのように有用昆虫の雌雄で効果の変わらないものもあります。一方、コナジラミの天敵農薬として使われるオンシツツヤコバチは寄生バチの一種です。害虫の体内に産卵して殺す能力を持つのはメスだけなので、メスを選択的に生産できると都合が良いのです。

ヒトの疾病予防では、ネッタイシマカに対する取り組みが実用化しています。ネッタイシマカはデング熱やジカ熱を発症させるウイルスを媒介しますが、ボルバキアのwMel株が寄生するとウイルスの感染能力が阻害されることが知られています。そのため、ブラジルでは2017年から、ボルバキアを感染させたネッタイシマカを大量に放虫し、自然で非感染ネッタイシマカと交配させて、ボルバキア感染ネッタイシマカを人工的に増やす試みが行われています。細菌はシンガポール、インドネシアでも野外実験が進められており、感染率の大幅な低下も報告されています。

昆虫の体に入り込み性を操作する「謎の細菌」は、利用方法を工夫するとヒトの世界の生活向上にもつながります。「科学技術と社会」を象徴する一例とも言えるのではないでしょうか。

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