<日本でほどんと報じられなかった昨年12月末の「サルマーン国王早指しチェス世界選手権」。女性の服装や外交問題など、いかにもサウジという問題が起こったが、そもそもチェスは「ハラーム(禁止)」だ>

昨年12月末、サウジアラビアで「サルマーン国王早指しチェス世界選手権」が開催された。字面だけみれば、ああそうですかというぐらいで、どうってことはないかもしれない。

だが、実際にはこのイベントをめぐっていろいろ事件が起き、そのいずれもがいかにもサウジアラビアらしいというので、メディアでも大きく取り上げられた(ただ、残念なことに、日本のメディアでは、将棋の藤井四段や羽生永世七冠などのニュースで手一杯のためか、サウジアラビアでのチェス選手権のことはほとんど報じられなかったし、あまり評判がよくない日本チェス協会のウェブサイトでも一切触れられていない)。

ドレスコードでひと悶着あったが、結局は...

サウジの選手権開催でまず槍玉に挙がったのが、ドレスコードである。サウジアラビアでは女性は公的な場においては、外国人も異教徒も含め、アバーと呼ばれる長衣で全身を覆わねばならないという暗黙(?)のルールがある。

そのため、2度の女子世界チャンピオンを獲得したウクライナのアンナ・ムジチュクは「たとえタイトルを失おうとも、(サウジの首都)リヤードにはいかない。ヒジャーブ(頭にかぶって髪の毛を隠す布)をかぶるのはイランで十分だ」といって、早々とサウジ行きをボイコットしてしまったのだ。

ちなみに、これに関して西側メディアはしばしば女性のチェス・プレーヤーが髪の毛を隠して、プレーしている写真を掲載していた。だが、これらの写真の大半は実はサウジアラビアではなく、イランの大会での場面だったのである。

記事の多くはサウジを批判的にみる内容なので、写真は印象操作くさいのだが、もちろんサウジアラビアであれば、そういうふうになる可能性は十分あったであろう。しかし、この大会で重要なのは、サウジの大会主催者がその後、ドレスコードを大幅に緩め、アバーやヒジャーブを着用しなくてもいいことにした点である。

国際チェス連盟が11月に発表したプレスリリースによると、大会では、男性は濃紺か黒のフォーマル・スーツに白いシャツ(ネクタイはつけてもつけなくてもよい)、一方、女性も濃紺か黒のスーツ(ただし、スカートではなく、パンツ)に襟のついた白のブラウスを着用すると規定された。

主催者側の公開している実際の選手権時の写真を見ると、非ムスリムの女子選手が髪の毛を隠さずにプレーしているのがわかる。サウジアラビアで、いくら外国人とはいえ、女性がこんなにたくさん髪の毛を出したまま、不特定多数の男性と同じ場所にいるのはきわめて珍しい。

チェスは神を忘れさせる