国交のないイスラエル、イラン、カタールの選手は?

さて、もう1つの問題は政治である。イスラエル、イランおよびカタル(カタール)というサウジアラビアと国交のない、あるいは現在国交を断絶している国からの参加者をどうするのか。これも、サウジ大会での大きな関心事であった。

結果的にいうと、カタルとイランの選手にはビザが発給された。しかし、両国チェス協会は、参加を取りやめた。理由はよくわからない。

カタルについては、サウジアラビアから治安上の理由で試合中にカタル国旗を出すなとの要請があったが、カタル側がそれを拒否したためとの説がある。一方でサウジ側がカタルに妥協して、カタル国旗を出すのを認めていたとの報道もあった。どちらが正しいのか、わたしには判断がつかなかった。残念ながら、イランについても不参加決定の理由について調べきれなかった。

サウジアラビアが国交をもたない、もう1つの国、イスラエルはどうだろう。イスラエルについては、両国とも反イランということで、近年政治的に急速に接近しつつあるとの説が強い。

したがって、今回の選手権でもイスラエル選手にビザを発給するのではないかとの観測も出ていたが、結果的にいうと、イスラエル人プレーヤーにはビザは出なかった。このあたりは、サウジアラビアとしても筋は通したというところだろうか。

「チェスはハラーム(禁止)だ」と最高宗教権威

なお、わたし自身にとって、今回のサウジアラビアのチェス大会を考えるうえでもっとも重要な要素は、女性の服装でも、外交問題でもない。チェスそのものの是非である。実は2015年末、サウジアラビアの最高宗教権威、アブドゥルアジーズ・アールッシェイフは、チェスがイスラームでは許されないとの宗教判断を下していたのだ。

彼はクルアーンの第5章90節の「これ、汝ら、信徒の者よ、酒と賭矢と偶像神と占矢とはいずれも厭うべきこと。シャイターンの業。心して避けよ。さすれば、汝ら運がよくなろう」(クルアーンの訳は岩波文庫版から)を引用し、チェスは時間の無駄、金の無駄、ケンカや諍いの原因だと主張したのである。彼にとっては、チェスとは賭け事であり、また、夢中になりすぎて、何よりも大切な神のことを忘れさせるものでもあった。

ちなみにいうと、チェスを禁止しているのは、サウジアラビアのワッハーブ派(ハンバリー派)だけではない。スンナ派公認法学派は、シャーフィイー派を除き、チェスはハラーム(禁止)だと主張している。

シーア派でも同様だ。だから、イランでもイスラーム革命後、一時期チェスは非合法とされていた。もっとも、そのイランでも今はチェスが解禁されているし、アラブ諸国でも、チェスを禁止している国はないはずだ。サウジアラビアでも昔からサウジアラビア・チェス協会は存在していたし、チェスを娯楽として楽しんでいた人も少なくなかった。

チェスの本場は実は中東