慰安婦訴訟、国際社会の「最新トレンド」で攻める韓国と、原則論で守る日本

2021年1月8日(金)21時09分
木村幹

<ソウルの日本大使館が差し押さえられ、「現金化」もされかねない事態を招いたのは、モノ言わず戦いもしない日本外交だ>

2020年、新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう中、日韓関係の悪化が霞んで見える状況が続いてきた。本コラムでも述べて来たように、この年の8月には、元徴用工問題での被告側日本企業資産の「現金化」や日韓GSOMIA破棄期限等があったにも拘わらず、両国関係は一昨年の様に緊張せず、以後も相対的に平穏な状態が続いてきた。

しかしながら、明けて2021年1月8日、韓国から日韓関係を大きく揺るがしかねないニュースが飛び込んできた。即ち、ソウル中央地方裁判所による、慰安婦問題に関する判決である。この裁判は、日本軍の元従軍慰安婦12人(故人を含む)が日本政府に損害賠償を求めたものであり、ソウル中央地方裁判所は原告の請求を認め、日本政府に1人当たり約950万円(1億ウォン)の賠償を命じる事となっている。

今度の被告は日本政府

この判決について、一部メディアやSNS等における議論では、「慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認」した2015年の慰安婦合意に反するものだとする反発が高まっている。菅首相も記者団の取材に「1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決済みだ」と強調しており、この問題を従来と同じ「慰安婦問題」の枠組みで捉えている様に見える。

だが、今回の判決の最も重要なポイントは、それが「慰安婦問題」に関わるものである事や、日本側が敗訴した事等にあるのではない。この判決の重要性は、これが韓国の裁判所で行われた民事訴訟であり、にも拘わらずそこで外国政府である日本政府への裁判管轄権が認められ、結果、日本政府が敗訴した事にある。

この事を理解する為には、国際社会には国家主権・主権平等の原則の下、主権国家が他の国家の裁判権に服することはない、という「主権免除」の原則が、重要な国際慣習法の一つとして存在している事を知らなければならない。この原則は元々、各々の主権国家が平等であるべき国際社会において、影響力の大きな国が自らの恣意的な法的解釈により、自国の裁判所の判決を通して、他国の主権に介入する事を防ぐ為のものである。

言い換えるなら、この原則が存在しなければ、ある大国がある小国に対して、自国の裁判での判決を突きつけ、介入する行為が可能になる。その事の意味は、例えばある巨大な力を持つ独裁国家が自国の裁判所の判決として、小さな周辺国にその履行を押し付けた場合を考えれば明らかだろう。だからこそ如何なる国家も他国の裁判権に服する事は無い、という原則が重要な国際慣習法の一つとして認められている訳である。

この様な観点からすれば、今回の裁判は、韓国の裁判所が韓国の法に基づいて、日本政府の法的責任を問う、という意味で正面からこの「主権免除」の原則と衝突するものである。だからこそ日本政府もまた、この裁判に対しては、韓国の裁判所には日本政府の責任を問う管轄権を存在しないとして、裁判自身に応じず黙殺する姿勢を続けてきた。