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ラッシャー貴子|イギリス

地下鉄から心に寄り添う詩を届ける、オール・オン・ザ・ボード

 オール・オン・ザ・ボードは、病気やメンタルヘルスを啓発するメッセージにも力を注いでいる。普段は「専門家じゃないので経験から書いている」けれど、こうした内容を書く時には、間違いのないように時間をかけて調べてから言葉を選ぶ。時間も労力もそれなりにかかるので、この活動全体を彼らは「無給の、もうひとつのフルタイムの仕事」と呼んでいる。

 2人がこうした啓発メッセージに力を入れるのには理由がある。彼ら自身にも、辛い経験があり、病気や症状を抱えている。イアンさんは運転手として働いていた時に、女性が線路に飛び込むところを目の前で目撃し、うつ状態やフラッシュバックに悩まされて以来、車両の運転ができなくなった。ジェレミーさんは多感な十代の頃、当時、男性には珍しいと考えられていた摂食障害があって、周りに理解されず苦しんだ。

 他にも耳鳴りや潰瘍性大腸炎などを患った経験のある2人が詩としてそれを発表すると、「自分だけじゃないと思えて心強い」と大きな反響があった。自分たちの苦しみを共有することで誰かが励まされるならと、その後も続けることにして、その範囲は他の病気やメンタルヘルスにも広がっている。

オール・オン・ザ・ボードのインスタグラム投稿から、てんかんについて書かれた詩。病気についてのメッセージでは、彼らは明るさを保ちながら真摯に症状を伝え、それを抱える人の不安や心情を思いやる。わたしはこの詩でepilepsy(てんかん)という英語を知り、周りで発作が起きた時に自分が対処する可能性を考えた。

 地下鉄に乗客やSNSのフォロワーに向けて書かれたやさしい言葉は、辛い時間を過ごした自分たちにも向けられているのかもしれない。世界中にハッピーになってほしいと語る彼らだけれど、そこにはきっとイアンさんもジェレミーさんも入っているのだ。

 ユニット名のオール・オン・ザ・ボードは、「みんな一緒に(地下鉄に)乗っている」という意味を込めてつけたそうだ(「掲示板に書いてあるよ」という意味もかけているかもしれない)。彼らの最初の書籍の前書きには、「同じ地球に生きているんだから、一緒に仲よくやろうよ」と綴られている。オール・オン・ザ・ボードの言葉はみんなを慰め、知らない誰かが感じている気持ちを想像させてくれる。

オール・オン・ザ・ボードのインスタグラム投稿より、彼ららしいと感じる詩のひとつ。「人にやさしく、自分にもやさしく。僕たちはお互いが何を抱え込んでいるのか、わからないものだから」。うんうん、そうだよね。やさしい言葉で語られると、自分で考え始めるハードルも下がる気がして、それも彼らを好きな理由だ。

* オール・オン・ザ・ボードの詩は以下のSNSで見られます。英語で書かれているけれど、シンプルでわかりやすいので、彼らのやさしさ、温かさにぜひ直接触れてみてください。

インスタグラムツイッターフェイスブック

* 本文とキャプションで日本語として記した原文は、どれも筆者が抄訳あるいは仮訳したものです。

 

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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