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ガザ

映画『ヒンド・ラジャブの声』が世界に届ける、6歳少女「最期の訴え」とイスラエルの暴虐

2025年9月11日(木)16時10分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学国際学部教授)

絶え間ないイスラエルの攻撃がガザに降り注ぐなか、無数の民間人、特に幼い子供たちの命が奪われていった。彼らは何の罪もなく、その純粋な日々を奪われ、死の炎に包まれてしまったのだ。
 
そうした悲劇の中でも世界に衝撃を与えたのが、まだ6歳の少女ヒンド・ラジャブの物語だった。彼女は生きる希望を絶たれた狭い車の中で、死に囲まれながらも、唯一その無念を晴らすための声を上げ続けていた。

2024年1月29日、ガザ市のテル・アルハワ地区。ヒンドがいとこら親族と乗っていた車をイスラエルの戦車が唐突に襲撃した。ヒンド以外の6人全員が命を奪われた。

ヒンドは閉じ込められた車の中から電話で助けを求めるも、激しい銃撃のせいで救助隊は現場に近づくことができない。

3時間ものあいだ、恐怖と孤独に震えるヒンドは赤新月社の隊員たちに話し続けた。殺された親族の亡骸を前にしても、叫び続ける彼女の声は世界中の人々の胸を締めつけた。

数日後、救助隊はヒンドの遺体を見つけた。そして、彼女を救おうとした救急隊員の2人もまた、同じ運命にあったのである。

イスラエルが永遠に葬り去ろうとしたこの事実。最先端の兵器で一家を、そして6歳の少女ヒンドまで命を奪った夜。車の中、親族を失い独りきりとなったヒンドの叫び声は、世界のさまざまな場所にこだまし、ついにべネチアの祭典に響き渡った。

車内にたった1人残されたヒンドは母に電話をかけ、「みんな殺された。私だけが生きている」と恐怖を訴え、誰かが助けに来るまで電話を切らないでほしいと懇願した。

母親は救助隊が必ず来ると励まし、電話を切らずに祈り続けた。その通話は70分にも及んだ。やがてヒンドの声は静かに途絶え、後に占領軍の戦車によって永遠に消されたことが明らかになった。

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