最新記事
ウクライナ情勢

「究極の政治的裏切り」を先に決断するのは、プーチンかゼレンスキーか?

PEACE REQUIRES BETRAYAL

2023年4月2日(日)11時46分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)

ウクライナが望む形での戦争終結、つまりロシアの完全な敗北はそう簡単には実現しそうにない。

激戦が続くなかロシアの残虐なやり口はウクライナ人の怒りをかき立て、和平のための妥協を一切許さないムードが醸成されている。この状況で停戦交渉を進めるには相当の覚悟がいる。

結果的にウクライナ戦争は、長引く持久戦で膨大な死者を出した第1次大戦の哀れなレプリカの様相を呈しつつある。

ロシアが劣勢に追い込まれるにつれ、プーチンが核の使用に踏み切り、NATOが直接的に戦争に介入する危険性が高まる。ロシアと戦略的に手を組む中国がこの機に乗じて台湾に侵攻し、破滅的な世界戦争の火ぶたが切られるシナリオすらあり得る。

ウクライナの指導者たちはイラン・イラク戦争の教訓に学ぶべきだ。80年に始まったこの戦争は、イラクの侵攻に疲弊し切ったイランが国連安全保障理事会の停戦決議を受け入れるまで8年間もかかり、100万人超の死者が出た。賢明な決断のおかげで、イラン国民は全滅を免れた。

本人も驚いているだろうが、この1年余りでゼレンスキーは戦争の英雄となった。だが今、彼は耐え難いジレンマに直面している。

戦争を終わらせるには完全な勝利ではなく、不完全な和平に甘んじざるを得ない。遅かれ早かれゼレンスキーか、望むらくはプーチンが究極の政治的裏切りをせざるを得ないだろう。

©Project Syndicate

230404p16NW_Shlomo_Ben_Ami.jpgシュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
SHLOMO BEN-AMI
イスラエル元外相。世界各地の紛争解決を目指す「トレド国際平和センター」副所長。著書に『戦争の痕、平和の傷──イスラエルとアラブの悲劇』がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米テキサス州洪水の死者43人に、子ども15人犠牲 

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中