最新記事
台湾

有事にもろい台湾ネット環境 衛星回線の容量は海底ケーブルのわずか0.02%

2023年3月20日(月)14時48分
ロイター

台湾政府高官ほか、別の関係者1人によると、総統を含む司令部が戦時に利用する通信チャンネルの強じん性を高める取り組みも進んでいる。

安全保障政策に携わる高官は、ウクライナのゼレンスキー大統領がソーシャルメディアで強力な存在感を示している事例を挙げて「われわれはゼレンスキー氏(の行動)を参考にしている」と述べた。

台湾数位発展部(デジタル発展省)は声明で、沖合の島々で衛星通信の試験プログラムを優先的に実行するとともに、年末までに周辺諸島でマイクロ波通信の帯域を拡大する方針を明らかにした。

海底ケーブルのもろさが露呈

台湾の通信インフラの脆弱さを露わにしたのが、今年2月に台湾本島と馬祖島を結ぶ海底ケーブル2本が切れて、島民1万4000人がインターネットに接続できなくなった事案だ。

当局がこれまでに調査したところでは、中国の漁船と貨物船が切断したもようだが、中国政府の関与があったという証拠は見当たらなかった。

電気通信事業最大手、中華電信は台北の山の上から馬祖島にマイクロ波を送る予備の通信システムに切り替えたものの、ケーブルが提供していた容量のおよそ5%しか復旧できなかった。今月に入って政府がこのシステムを拡充し、インターネットの通信速度は格段に向上したものの、台湾にはケーブル修復船が乏しいため、住民のネット接続が完全復旧するのは4月終盤以降になるという。

安全保障問題に詳しい台湾政府高官の1人は、海底ケーブルのもろさはずっと前から安全保障上の懸念要素で、これまで根本的な解決策が打ち出されなかったのは本当に愚かだと憤り、「独力で海底ケーブルの修理もできない」と自嘲した。

与党民進党の馬祖島支部長を務めるリー・ウェン氏は、このケーブル切断は台湾全土に対する「警報」になったと指摘。「もし世界とつながっている14本のケーブル全てが破壊されたらどうなるだろうか。われわれは適切な準備ができているか」と問いかけた。

台北のシンクタンク、国策研究院で軍事分野の研究をしているチエ・チュン氏は「緊急時には人々は情報を欲しがる。それが手に入らないと、パニックが広がっていく」と話す。

TWNICのフアン氏は、ケーブルが切断されて起きる軍事的な影響は、情報の遮断とパニックにとどまらないと指摘。ケーブルを切断された場合、台湾側は中国が全面攻撃の正当化に使えないような対応を適格に実行することが難しいかもしれないと予想する。

このためフアン氏は、中国が全面的な侵攻の手始めに海底ケーブルを切ってしまうのはほぼ間違いないと予想した。

(Sarah Wu記者、Yimou Lee記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中