最新記事

宇宙

「エキサイティングな発見だ!」天の川の背後には58個もの別の銀河が眠っていた...

2022年11月25日(金)18時40分
青葉やまと

12年間かけて撮影された234枚の写真をつなぎ合わせた圧倒的な天の川(一部) PHOTO:(C) J-P METSAVAINIO

<天の川付近の夜空は明るすぎるため、これまで観測が難しいとされてきた。今回、南米の研究チームが複数の銀河が存在するとの確証を得たという......>

夜空にきらめく天の川の背後には、58個もの別の銀河が息づいているようだ。分光赤方偏移と呼ばれる観測技法により、南米の研究チームがその存在を解き明かした。

天の川付近の夜空は明るすぎるため、これまで観測が難しいとされてきた。今回チームは、チリのジェミニ南望遠鏡に装備されているFLAMINGOS-2と呼ばれる近赤外線観測装置を使い、さらに分光赤方偏移と呼ばれる技法を活用することで、複数の銀河が存在するとの確証を得たという。

研究はアルゼンチン国立サンフアン大学のダニエラ・ガルデアノ氏(天文学)が主導し、査読前の論文として現在、プレプリント保管サービスのarXiv上で公開されている。査読を経て、天文学ジャーナル『アストロノミー&アストロフィジックス』に掲載される見込みだ。

論文によると天の川の向こう側には、少なくとも約30億光年離れた5つの銀河が存在するという。今後さらなる調査が必要なものも含めると、計58個の銀河が天の川の向こう側に眠っているとチームは考えている。

>>■■【画像】12年かけて撮影された天の川の圧倒的パノラマ画像が公開

夜空のおよそ10%は研究が進んでいない

天文学が進展した現在でさえ、夜空のおよそ10〜20%の領域についてはほかの領域ほど研究が進んでこなかった。この領域は天の川を中心とした「銀河面吸収帯」と呼ばれる特殊な領域だ。

地球は天の川銀河の一部だが、とくに地球から見て天の川銀河の中心方向の夜空は星間物質が密集しすぎており、観測が難しい。ちょうど夜空に天の川として輝いている領域だ。この周辺には銀河系の盤面上の星間物質が多く存在し、背後にあるはずの銀河系外の天体を観測することが困難となっている。

科学ニュースサイトのPhys.orgは、「科学者として打てる手が限られることから、この領域はあまりよく研究されてこなかった。したがってその背後に何が隠されているかも、ほとんど知られていない」と説明している。

宇宙の膨張を利用して距離を推定

そこでチームは可視光線に頼るのではなく、近赤外線観測装置を用いた観測を行った。さらに、複数の研究機関がこれまでにVVVサーベイと呼ばれるプロジェクトで収集してきた、膨大な量の赤外線放射データを分析している。赤外線は可視光線よりも銀河面吸収帯を透過しやすい特性があるため、その背後に潜む構造物の把握に有効だ。

これらデータをもとに、分光赤方偏移と呼ばれる手法が実施された。この方法では、測光データから得られたスペクトルエネルギーの分布をもとに、赤方偏移の大きさを推定する。遠方にある複数の銀河を分析するうえでよく活用される方法であり、結果としてその銀河までの距離を得ることができる。

原理として、非常に遠方にある天体から発せられた光は、地球に届くまでに宇宙の膨張の影響を受ける。これにより距離に応じたドップラー効果を生じ、波長が低周波側(赤方側)に偏移する。したがって、赤方偏移によって波長がどれほどずれたかが判明すれば、当該の天体との距離を逆算することが可能だ。

チームはこうした手法を用い、結果として銀河面吸収帯の後方に位置する複数の構造物と地球までの距離を一挙に取得することに成功した。

>>■■【画像】12年かけて撮影された天の川の圧倒的パノラマ画像が公開

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中