最新記事

ハリウッド

ジョニー・デップ裁判は「失敗」だった──最大の間違いは、判事の判断だ

Trial by Social Media

2022年6月22日(水)19時40分
ジョアン・スウィーニー(ルイビル大学法学教授)
ジョニー・デップ

デップとハードの裁判映像を加工したコンテンツは、ハードを嘲笑するものが圧倒的に多かった JIM WATSON-POOL-REUTERS

<テレビ中継された元セレブカップルの裁判は、陪審員を「保護」できなかった判事の判断ミスのせいで陪審員が「雑音」にさらされた>

4月から7週間、全米をクギ付けにした俳優アンバー・ハードとジョニー・デップの元夫婦による名誉毀損訴訟が(ひとまず)終わった。

ハードは2016年に離婚を申し立てたときから、デップによるドメスティックバイオレンス(DV)を主張していたが、デップ側は断固否定。それでも比較的早い段階で和解がまとまり、17年1月に正式な離婚が成立していた。

今回問題となっていたのは、2人の離婚後の18年12月にワシントン・ポスト紙に掲載されたハードの寄稿記事。「私は性的暴力に声を上げた」と題された記事に、デップの名前は出てこない。だが「2年前、私はDVを代表する有名人になった」と書いていることから、デップとの関係を語っていることは明らかだった。

これに激怒したデップは19年、自らの評判とキャリアを傷つけられたとして提訴した。4月から始まった事実審理は、この裁判の最後の山場と言っていいだろう。

結果は、基本的にデップの圧勝だった。陪審は、ハードがデップの評判を悪意で傷つけたと認定し、損害賠償金として計1500万ドルをデップに支払うよう命じた(ただし裁判所があるバージニア州の法律により、この金額は1035万ドルに減額された)。

この判決は多くの理由から批判を浴びた。特に懸念されるのは、性的虐待に声を上げても、カネとパワーがある男性に握りつぶされてしまったり、かえって誹謗中傷の的になることを恐れて、被害者が口を閉ざすようになることだ。

裁判を担当したペニー・アズカラーテ判事の采配にも問題があった。もちろん、どちらかの当事者に肩入れしていたわけではない。それにメディアが大騒ぎしてカオス的な状況に陥るなか、法廷は一貫してオアシスのような穏やかさを維持していた。

だが、こうしたカオスが陪審員の頭の中に入り込まないようにする措置が取られたかどうかは疑わしい。アズカラーテは事実審理に先立ち、むしろそれを助長するような2つの決定を下した。

220628p62_tsm02.jpg

アンバー・ハード MICHAEL REYNOLDS-POOL-REUTERS

ネットに溢れた「涙の証言」を揶揄する動画

まず、裁判のテレビ中継を許可した。ただでさえDVというセンシティブな問題が扱われる裁判であるために、この決定はすぐに批判を浴びた。ハードの弁護士は、裁判の映像を切り出し、ハードが悪者に見えるよう加工することが非常に簡単であるとして、テレビ中継に反対していた。

その懸念は正しかった。

ただ、その加工と拡散のレベルは、ハードの弁護士の予想をはるかに上回っていた。ツイッターやフェイスブックには、裁判の映像を面白おかしく加工したコンテンツがあふれた。TikTok(ティックトック)には、ハードの涙ながらの証言音声を使ったユーザーの口パク映像が大量に拡散した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に

ビジネス

トランプ氏、8月下旬から少なくとも8200万ドルの

ビジネス

クーグラー元FRB理事、辞任前に倫理規定に抵触する
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中