最新記事
犯罪

フィリピン麻薬戦争 防犯カメラが伝える捜査という名の残虐行為

2017年12月6日(水)17時46分
ロイター

11月27日、警察の報告書は明快だった。フィリピン首都マニラの貧困地区で、3人の男性に麻薬取締官が発砲して負傷させ、病院に「緊急搬送」したが、運ばれた時にはすでに死亡していた、と記してある。写真は事件発生現場に座る男性。マニラで10月13日撮影(2017年 ロイター/Dondi Tawatao)

警察の報告書は明快だった。フィリピン首都マニラの貧困地区で、3人の男性に麻薬取締官が発砲して負傷させ、病院に「緊急搬送」したが、運ばれた時にはすでに死亡していた、と記してある。

だが、ロイターが入手した防犯カメラによる映像を見ると、10月11日正午過ぎにバランガイ(最少行政区)19区で発生した状況は、彼らの説明とまったく異なっている。

映像では、負傷した男性たちを警官が運び出すまでに、少なくとも25分かかっている。病院に搬送するために、彼らの腕と足を持った警官たちが、ぐったりした身体を人力三輪車に運び入れる様子が映し出されているが、生きている兆候は見受けられない。

フィリピンのドゥテルテ大統領が昨年6月の就任以来、最重要課題として掲げている「麻薬撲滅戦争」に取り組むなか、この映像は、警官による殺害に関する公式見解の信ぴょう性に対して、新たな疑問を投げかけている。

ロイターは6月、麻薬取り締まり作戦を遂行中の警官から銃撃され、病院搬送時に死亡した犠牲者が、数百人に達していると報じた。

救命に努めたと警察は説明するが、遺族や目撃者は、殺害現場を混乱させ、司法手続きを経ずに「処刑」した事実を隠ぺいするために、警察が遺体を病院に運んでいる、と主張している。

就任以来ドゥテルテ大統領が率いる麻薬撲滅作戦の下で、警察は少なくとも3900人を射殺。すべて正当防衛だった、と説明している。自警団員によるものとみられる数千人の殺害についても、人権活動家は警察の関与を主張するが、当局は一切の関与を否定している。

今回防犯カメラが捉えた現場にいた目撃者は、犠牲となった男性3人は、警察が説明するように正当防衛で撃たれたのではなく、処刑されたのだ、とロイターに語った。殺傷力のある武器の使用は正当防衛の場合に限ると警察は主張するが、ロイターの取材で、警官が裁判を経ることなく人々を処刑している状況が浮かび上がってきた。

防犯カメラの映像は、警察の説明と矛盾しているだけではない。

麻薬撲滅戦争で採用されている別の手法についての証拠も提示している。それは、こうした犯罪現場で、警官の手により防犯カメラが無力化されているという実態だ。防犯カメラ4台で同時に撮影された今回の映像では、警官1人が、その場を捉えていたカメラの向きを変えて、現場が映らないようにしている様子が記録されていた。

警察は、自分たちの行動を暴露する映像の危険性を理解している。麻薬撲滅戦争に従事する現役指揮官は今年、麻薬撲滅戦争で殺害を計画する地域では、地元当局者と共謀して防犯カメラの電源を切っている、とロイターに語っていた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミネソタ州に兵士1500人派遣も、国防総省が準備命

ワールド

EUとメルコスルがFTAに署名、25年間にわたる交

ワールド

トランプ氏、各国に10億ドル拠出要求 新国際機関構

ワールド

米政権、ベネズエラ内相と接触 マドゥロ氏拘束前から
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向」語る中、途方に暮れる個人旅行者たち
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 5
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 6
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」…
  • 7
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 10
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 8
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 9
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 10
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中