最新記事

北朝鮮追加制裁

失敗し続けるアメリカの戦略――真実から逃げているツケ

2017年9月12日(火)15時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

国連安保理、北朝鮮制裁決議を全会一致で採択(9月11日) Stephanie Keith-REUTERS

全ての選択肢はテーブルの上にあると言いながら武力攻撃の手段は選べず、石油の全面禁輸まで譲歩した。これでは北朝鮮に核・ミサイル開発の時間を与えるだけだ。問題の根源から逃げてきたアメリカのツケである。

またもや譲歩――北朝鮮を増長させるだけ

日本時間9月12日朝、国連安保理で北朝鮮への制裁決議案が採決された。アメリカ主導で「これまでにない最強の制裁」として、石油の全面禁輸などを宣言しながら、結局、また中国やロシアに譲歩した形だ。事実上、石油禁輸の程度はこれまでと大差ない。金正恩委員長個人の資産凍結さえ盛り込めなかった。繊維の輸入や新たな北朝鮮労働者の新たな受け入れを禁止したくらいでは、何も変わらない。「全会一致」という現象を重視しただけで、効果はあまり期待できないだろう。

これでは、強いことを言ってきただけに、今までよりも更に北朝鮮を増長させるだけだ。

そうでなくともトランプ政権は何度も「すべての選択肢はテーブルの上にある」と言って武力攻撃を暗示しては、結局のところ「犠牲があまりに大きすぎる」として武力攻撃に入れずにいる。

これは何も言わないときよりも北朝鮮を勇気づけ、「結局、武力攻撃はしてこないな」と高をくくらせ、これまで以上に大胆にさせていくだけだろう。

全ての選択はテーブルの上にあると言ったのなら、北朝鮮が最も恐れる選択を実施すればいい。米軍の技術が高いのなら「斬首作戦」を断行するとか、核・ミサイル基地をピンポイント攻撃するとか、あるいはミサイル発射機能をサイバー攻撃するなど、選択肢はないわけではあるまい。こちら側に犠牲が出ない方法だって、取ろうと思えば取り得る。特にピンポイント攻撃に関しては、中国も容認している。

残された時間がないというのに、今回の制裁決議案は、また「北朝鮮が増長するための時間」を与えただけだ。北朝鮮は一気に加速度的に核・ミサイル開発に全力を注ぎ、アメリカまで届く核弾頭弾道ミサイルを完成させてしまうだろう。

アメリカが休戦協定を破っていることが根源的原因

何度も繰り返すが、北朝鮮問題の根源的理由はアメリカが朝鮮戦争(1950年6月25日~1953年7月27日)の休戦協定(1953年7月27日)を破っていることにある。

休戦協定第60項では、休戦協定締結から3ヵ月以内に、朝鮮半島にいるすべての他国軍は撤退することとなっているが、アメリカを除くすべての軍隊が撤退したというのに、アメリカだけは撤退せずに今日まで至っている。休戦協定はアメリカが暫定的に提案したので、休戦協定の冒頭および第60項では、「終戦のための平和条約を結ぶこと」が大前提となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪首相、12日から訪中 中国はFTA見直しに言及

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

赤沢再生相、米商務長官と電話協議 「自動車合意なけ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中