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第四次アニメブームに沸く日本、ネット配信と「中国」が牽引

2017年5月30日(火)17時54分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

海賊版天国の論理とキュレーションサイト問題

「いやいやいや、中国は海賊版天国でしょ。なんで正規版が売れるの?」と不思議に思われる方もいるかもしれない。確かに中国は海賊版天国であったし、今でも海賊版は無数に存在しているが、その状況は大きく変わっている。この変化については拙著『現代中国経営者列伝 』(星海社、2017年)に詳しくまとめたが、ここではちょっと違った角度から解説してみよう。

【参考記事】レノボもアリババも「毛沢東の戦略」で成功した

そもそも、なぜ中国のウェブは海賊版天国だったのだろうか。転換点となったのが2005~2010年の「百度MP3検索訴訟」だ。

中国の検索サイトで当初トップシェアを握っていたのはグーグルだった。その後、検閲によって急速にシェアを落とし、百度に王座を奪われることになる。追い上げる百度の目玉サービスが「MP3検索」だ。これはネットに転がっている音楽ファイルを検索し気軽に聞けるようにするという代物だったため、2005年にユニバーサル、ワーナー、ソニーなど世界的音楽企業から提訴されることになる。

裁判の末、百度は無罪を勝ち取ったが、その時の根拠となったのが中国のネット著作権関連法律の規定だった。日本のプロバイダー責任法と同様に、権利者からの申請があった場合に法に従った速やかな削除を行えればウェブサービス提供者の責任が問われないとのルール(中国語で「避風港原則」と言う)が確立した。

この状況は昨年、日本で問題になったキュレーションサイト問題とよく似ている。日本のキュレーションサイトは、第三者が公開したコンテンツについては削除義務さえ果たせばサービス提供者は賠償責任を負わないという法規定を悪用し、故意に盗用コンテンツを量産していたわけだが、中国の企業も同様の理屈で海賊版を配信していたわけだ。

第三者がアップしたという建て前で、実際にはサービス事業者自らが海賊版コンテンツをアップしていたという点でも共通している。中国で10年前に横行していた手口が今さら日本で流行するというのもなんだか残念な話である。

ところが2010年代に入って中国の状況は一変する。「配信サイトは十分に育った、今度はコンテンツメーカーを保護しなければならない」と中国政府は方針を転換。すると司法がお上に従うお国柄だからということなのだろうか、中国の司法は「避風港原則」を認めず、悪質な行為だとしてサービス事業者に賠償を認めるケースが増えてきた。

いつ消えてしまうかわからない海賊版よりも、ちゃんと見られる正規版のほうが消費者にとっての利便性も高い。かくして中国のネットはいまだに多くの海賊版はあるものの、正規配信が主流へと切り替わっていったのだった。

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