最新記事

中国経済

レノボもアリババも「毛沢東の戦略」で成功した

2017年4月26日(水)18時35分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

昨年11月、広東省のイベントで登壇したアリババのジャック・マー(左は女優のスカーレット・ヨハンソン) China Daily/via REUTERS

<「農村が都市を包囲する」――これぞ中国市場で覇権を握る秘訣だ。中国企業が日本に乗り込む事例も増えてきた今こそ、中国企業の戦略や経営者の人となり、中国経済について知っておいてほしい>

「農村が都市を包囲する」

毛沢東の戦略としてよく知られている言葉だが、実は中国ではビジネス戦略としてもたびたび使われている。

今や世界一のPCメーカーとなったレノボだが、1990年代には瀕死の状態に陥っていた。中国の市場開放に伴い、米国のヒューレット・パッカードや台湾のエイサーといった世界的企業が進出してきたため、レノボを始めとする中国国産メーカーは総崩れとなったのだ。

その時、起死回生の戦略として打ち出されたのが、民族工業(国産ブランド)衰亡の危機を救う英雄としての企業イメージ構築、そして「農村が都市を包囲する戦略」だった。

それまでの中国PCメーカーは卸に出荷すれば後は関知しないという投げっぱなし状態だったが、ヒューレット・パッカード方式の特約店モデルを採用。しかも、外資が入り込めないような田舎にまで店舗網を築き上げ、中国ナンバーワンの地位を確立した。

中国の飲料品大手ワハハも「農村が都市を包囲する戦略」の成功者だ。やはり1990年代のエピソードだが、大都市では外資系大手スーパーが販売の主導権を握っていた。ブランド力も資金力もない企業が割り込む隙間はない。ならばと郊外や田舎を中心に「聯銷体」(販売チェーン)と呼ばれる特約販売店網を構築し生き残りを図ったのだ。

21世紀になっても「農村が都市を包囲する戦略」は有効性を保っている。以前の記事「『テック界の無印良品』シャオミは何がすごいのか」 にも書いたが、中国国産スマートフォンメーカーの雄、シャオミは2016年に入り急失速した。その背景にあるのがOPPO、VIVOといった国産ライバルメーカーの台頭だ。

ネット直販を中心に販売してきたシャオミと異なり、これらのメーカーは郊外や農村の実店舗を基盤として販売やアフターサービスを充実させてきた。シャオミも最近、慌てて専売店を2000店舗にまで拡大する方針を発表したが、巻き返せるかは微妙な情勢である。

日本でもっともよく知られている中国企業であるアリババの「農村が都市を包囲する戦略」はやや異色だ。2003年から2006年にかけて、中国EC業界の覇権を賭けて米国の巨人eBayと熾烈な競争を繰り広げた。

eBayは大手ポータルサイトと、アリババなど他のEC企業の広告を配信してはならないという独占契約を結んだ。アリババはネット掲示板や中小サイトへの出稿というデジタル版「農村が都市を包囲する戦略」で対抗。毛沢東さながらのゲリラ戦で当初の劣勢を覆し、中国市場の覇権を手に入れた。

こうした中国企業の経営戦略やエピソード、そして創業経営者の生い立ちや人となりをまとめ、筆者はこのたび『現代中国経営者列伝』(星海社新書)を執筆した。列伝、すなわち経営者たちの伝記集というスタイルで、8人の企業家を取り上げた。その顔ぶれは以下の通り。

レノボ(PC)の柳傳志
ハイアール(家電)の張瑞敏
ワハハ(飲料)の宗慶後
ファーウェイ(通信機器)の任正非
ワンダ(不動産、小売、映画、スポーツ)の王健林
アリババ(EC)のジャック・マー
ヨーク(動画配信)の古永鏘
シャオミ(スマートフォン)の雷軍

加えて数人の新世代の企業家たちを紹介した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ベネズエラ安定化・復興へ3段階計画 国務長官が

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収修正案拒否 取締役会

ワールド

米、ベネズエラ制裁を選択的解除へ 選挙日程発表は時

ワールド

機関投資家の一戸建て住宅購入禁止へ、トランプ氏が表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 5
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが…
  • 6
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 7
    公開されたエプスタイン疑惑の写真に「元大統領」が…
  • 8
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 9
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 10
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 10
    感じのいい人が「寒いですね」にチョイ足ししている…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中