アングル:トランプ氏が「迫害」主張の南ア、暮らしやすさ重視の白人帰国者が増加
3月日、西ケープ州プレテンバーグベイの自宅で取材に応じるナオミ・サファイアと家族。REUTERS/Esa Alexander
Nellie Peyton Tim Cocks
[ヨハネスブルク 11日 ロイター] - 車内で銃を突きつけられて襲われたことをきっかけに、アンドルー・ビーチさん(53)は南アフリカを離れ、2003年に米カリフォルニア州に移住した。だが今、米国の方がより危ういと感じているという。公共の場での銃乱射事件や、移民当局による暴力などを例に挙げた。
「白昼堂々、人々が銃撃を受けている。市民が射殺されているのだ」とビーチさん。「こんな場所には住みたくない」
米政権の当局者は1月に市民2人を射殺した移民・税関捜査局(ICE)職員の発砲について、正当性を主張。ただ、映像証拠はこの説明と矛盾している。
トランプ米大統領は、黒人が多数派の南アフリカで少数派の白人が「迫害されている」と繰り返し主張している。だがビーチさんは今年、祖国に帰るつもりだという。数千人が今、各地で同じ道を選んでいる。
南アフリカ政府は白人差別や迫害について、証拠がないと否定した。白人少数派による支配が終わった1994年以降、治安悪化や就職難を理由に国外へ移った人は多いが、帰国を選ぶ人も少なくない。
同国では国外へ移住した南アフリカ人の市民権を剥奪する95年の法律を覆し、政府が11月、オンラインポータルを開設して1万2000人の市民権ステータスを確認した。ビーチさんもその1人だ。
この数字は、外国で暮らす南アフリカ人のごく一部に過ぎない。2022年の最新公式統計によると、同年に帰還した白人の南アフリカ人は約1万5000人に上る。
<物価低く混乱も少ない>
シュライバー内相は、1000人の市民権が回復されたと発表。この数字は、プログラムが本格化するにつれて大幅に増加すると予想した。
「海外在住の南アフリカ人の間で、確実に楽観的な見方が広がっている」と、白人主体の民主同盟(DA)に所属し、24年以降は与党アフリカ民族会議(ANC)との連立政権を率いるシュライバー氏は言う。自身も米国とドイツで過ごし、16年に帰国した。
海外在住者の帰国支援を行う人材紹介会社2社によると、問い合わせは急増しているという。ロイターが取材した帰国済みまたは帰国予定の南アフリカ人10人のうち、7人は欧州、3人は米国からだった。
帰国を選ぶ理由には、家族の近くにいたいという希望や、生活費の低さ、諸外国の政治的混乱などが挙がった。2万5000人が参加するフェイスブックグループ「南アフリカに戻ろう」でも、こうした声が共有されている。
トランプ政権は南アフリカに住むアフリカーナ人(その大半がオランダとフランスの初期入植者の子孫である白人)を中心とした難民受け入れプログラムを強化している。25年5月の導入以降、約3500人の南アフリカ人が難民として米国に入国した。
同プログラムの応募者らはロイターの取材に対し、人種差別に起因する犯罪被害に遭ったことや、数十年にわたる白人支配体制を受けて非白人候補を優遇する雇用是正法などに対する不満を訴えた。
他方、南アフリカでの生活を選んだ人からは喜びの声も聞かれた。ナオミ・サファイアさん(46)は昨年、米ノースカロライナ州を離れ、南アフリカ西ケープ州の海辺の町、プレテンバーグベイに移住した。米国で20年間暮らしてきたが、休暇で帰国した際、故郷をどれほど恋しく思っているかに気が付いたという。今では3人の子どもたちも屋外で過ごす時間が増え、健康保険も手頃で、教育環境も気に入っていると語った。
「ここに来られたことに心から感謝している」と話すサファイアさん。他にも帰国した人は多いと明かした。「米国も私にとって良い国だった。でも、子どもたちから生活を奪っている気がした」
<リモートワークで仕事継続>
南アフリカでは犯罪と失業が深刻な問題となっている。公式統計局の最新のデータによると、黒人の失業率は35%であるのに対し、白人では8%だ。
昨年発表された警察統計でも、白人より黒人の犠牲者が多かった。トランプ氏が「白人に対する迫害」の一例として主張する農民の死亡事件についても同様の結果だ。この件を巡ってトランプ氏が提示した写真や映像についてロイターが調べたところ、文脈から外れて引用されたり、事実とは異なっていたりすることがわかった。
それでも統計局は2001年以降、単純計算で50万人の白人が流出し、うち9万5000人は21ー26年に流出したと推定している。帰国者に関する定期的なデータはないが、統計局の分析によれば22年に2万8000人が帰国し、うち52.9%(約1万4800人)が白人だったとみられる。
人材派遣会社「DNAエンプロイヤーオブレコード」のアントン・ファンヘールデン最高経営責任者(CEO)によると、帰国を希望する南アフリカの白人からの問い合わせが過去6カ月で70%急増したという。ヨハネスブルクの人材紹介会社「ホームカミングEx」のエンジェル・ジョーンズCEOも24年以降、問い合わせが約30%増加したと述べた。
コロナ禍以降に急増したリモートワークも流れを後押ししている。ロイターが取材した帰国者のうち3人は、海外で得た仕事を続けていた。
ファンヘールデン氏によれば、専門職に就く南アフリカ人の多くは自宅に大規模な民間警備員を配置し、犯罪リスクを最小限に抑えているという。
「安全な環境で生活できる余裕があれば、北半球の多くの場所よりもはるかに良い生活が送れるだろう」
帰国者の中には、離れていた間に南アフリカの暮らしが改善したと受け止める人も複数いた。かつては毎日のように起きていた停電も、ほとんど解消されたという。
昨年12月、妻と子ども2人と共にオランダから帰国したエンジニアのユージーン・ヤンセンさん(38)は、知り合いの帰国者らの間で前向きな見方が広がっていると語る。
「皆、国が良くなりつつあると感じている」





