ニュース速報
ワールド

アングル:トランプ氏が「迫害」主張の南ア、暮らしやすさ重視の白人帰国者が増加

2026年03月15日(日)08時23分

3月日、西ケープ州プレテンバーグベイの自宅で取材に応じるナオミ・サファイアと家族。REUTERS/Esa Alexander

Nellie Peyton Tim Cocks

[ヨ‌ハネスブルク 11日 ロイター] - 車内で銃を突きつけられて襲われたことをきっ‌かけに、アンドルー・ビーチさん(53)は南アフリカを離れ、2003年に米カリフォルニア州に移住した。だが​今、米国の方がより危ういと感じているという。公共の場での銃乱射事件や、移民当局による暴力などを例に挙げた。

「白昼堂々、人々が銃撃を受けている。市民が射殺されているのだ」とビ⁠ーチさん。「こんな場所には住みたくない」

米政権の当局者は1月に市​民2人を射殺した移民・税関捜査局(ICE)職員の発砲について、正当性を主張。ただ、映像証拠はこの説明と矛盾している。

トランプ米大統領は、黒人が多数派の南アフリカで少数派の白人が「迫害されている」と繰り返し主張している。だがビーチさんは今年、祖国に帰るつもりだという。数千人が今、各地で同じ道を選んでいる。

南アフリカ政府は白人差別や迫害について、証拠がないと否定した。白人少数派による支配が終わった1994年以降、治安悪化や就職難を理由に国外へ移った人は多いが、帰国を選ぶ人も少⁠なくない。

同国では国外へ移住した南アフリカ人の市民権を剥奪する95年の法律を覆し、政府が11月、オンラインポータルを開設して1万2000人の市民権ステータスを確認した。ビーチさんもその1人だ。

この数字は、外国で暮らす南アフリカ人のごく一部に過ぎない。2022年の最新公式統計によると、同年⁠に帰還した白​人の南アフリカ人は約1万5000人に上る。

<物価低く混乱も少ない>

シュライバー内相は、1000人の市民権が回復されたと発表。この数字は、プログラムが本格化するにつれて大幅に増加すると予想した。

「海外在住の南アフリカ人の間で、確実に楽観的な見方が広がっている」と、白人主体の民主同盟(DA)に所属し、24年以降は与党アフリカ民族会議(ANC)との連立政権を率いるシュライバー氏は言う。自身も米国とドイツで過ごし、16年に帰国した。

海外在住者の帰国支援を行う人材紹介会社2社によると、問い合わせは急増しているという。ロイターが取材した帰国済みまたは帰国予定の南アフリカ人10人のうち、7人は欧州、3人は米国からだった。

帰国を選ぶ理由には、家族の近くにいたいという希望や、生活費の低さ、諸外国の政治的混乱などが挙がった。2万5000人⁠が参加するフェイスブックグループ「南アフリカに戻ろう」でも、こうした声が共有されている。

トランプ政権は南アフ‌リカに住むアフリカーナ人(その大半がオランダとフランスの初期入植者の子孫である白人)を中心とした難民受け入れプログラムを強化している。25年5月の導⁠入以降、約3500人⁠の南アフリカ人が難民として米国に入国した。

同プログラムの応募者らはロイターの取材に対し、人種差別に起因する犯罪被害に遭ったことや、数十年にわたる白人支配体制を受けて非白人候補を優遇する雇用是正法などに対する不満を訴えた。

他方、南アフリカでの生活を選んだ人からは喜びの声も聞かれた。ナオミ・サファイアさん(46)は昨年、米ノースカロライナ州を離れ、南アフリカ西ケープ州の海辺の町、プレテンバーグベイに移住した。米国で20年間暮らしてきたが、休暇で帰国した際、故郷をどれほど恋しく思っているかに気が付‌いたという。今では3人の子どもたちも屋外で過ごす時間が増え、健康保険も手頃で、教育環境も気に入っていると語った。

「ここに来ら​れたことに心‌から感謝している」と話すサファイアさん。他に⁠も帰国した人は多いと明かした。「米国も私にとって良い国だった。でも、​子どもたちから生活を奪っている気がした」

<リモートワークで仕事継続>

南アフリカでは犯罪と失業が深刻な問題となっている。公式統計局の最新のデータによると、黒人の失業率は35%であるのに対し、白人では8%だ。

昨年発表された警察統計でも、白人より黒人の犠牲者が多かった。トランプ氏が「白人に対する迫害」の一例として主張する農民の死亡事件についても同様の結果だ。この件を巡ってトランプ氏が提示した写真や映像についてロイターが調べたところ、文脈から外れて引用されたり、事実とは異なっていたりすることがわかった。

それでも統計局は2001年以降、単純計算で50万人の白人‌が流出し、うち9万5000人は21ー26年に流出したと推定している。帰国者に関する定期的なデータはないが、統計局の分析によれば22年に2万8000人が帰国し、うち52.9%(約1万4800人)が白人だったとみられる。

人材派遣会社「DNAエンプロイヤーオブレコード」のアントン・ファンヘールデン最高経営責任者(CEO)によると、帰​国を希望する南アフリカの白人からの問い合わせが過去6カ月で70%急増したという。ヨハネス⁠ブルクの人材紹介会社「ホームカミングEx」のエンジェル・ジョーンズCEOも24年以降、問い合わせが約30%増加したと述べた。

コロナ禍以降に急増したリモートワークも流れを後押ししている。ロイターが取材した帰国者のうち3人は、海外で得た仕事を続けていた。

ファンヘールデン氏によれば、専門職に就く南アフリカ人の多くは自宅に大規模な民間警備員を​配置し、犯罪リスクを最小限に抑えているという。

「安全な環境で生活できる余裕があれば、北半球の多くの場所よりもはるかに良い生活が送れるだろう」

帰国者の中には、離れていた間に南アフリカの暮らしが改善したと受け止める人も複数いた。かつては毎日のように起きていた停電も、ほとんど解消されたという。

昨年12月、妻と子ども2人と共にオランダから帰国したエンジニアのユージーン・ヤンセンさん(38)は、知り合いの帰国者らの間で前向きな見方が広がっていると語る。

「皆、国が良くなりつつあると感じている」

ロイター
Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ワールド

EXCLUSIVE-トランプ政権、イラン停戦交渉を

ワールド

アングル:トランプ氏が「迫害」主張の南ア、暮らしや

ビジネス

最近の急速なウォン安・円安、深刻な懸念共有=日韓対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 3
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈祷」を中国がミーム化...パロディ動画が拡散中
  • 4
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 5
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 6
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 7
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 8
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 9
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中