最新記事

アメリカ政治

トランプ政権のマクマスター新補佐官、安全保障に食い違い

2017年2月23日(木)09時59分

マクマスター氏は陸軍大佐だった2005年、米第3装甲騎兵連隊長としてイスラム過激派に占拠されたイラク・シリア国境の都市タルアガル奪回に向けた侵攻に際して、部隊将兵の一部にアラブの伝統衣装を身に付けさせ、アラブ系米国人を募って地元民に扮する役割を演じさせた。また、壁に掛けられた絵を見てその世帯がスンニ派かシーア派かを区別する方法を部隊に伝えるなど、実にきめ細かい準備作業を行った。

さらに部下に対して、イラク人と出会っても、多くの米国人がメッカ巡礼者を軽蔑して使う「ハジ(hajji)」と呼ぶなと命令している。

こうした経験を踏まえ、マクマスター氏は専門誌で、トランプ氏がスンニ派過激派組織ISを爆撃で根絶すると表明しているようなむやみな強硬策は裏目に出る恐れがあると警鐘を鳴らした。

<問われる政治対応>

マクマスター氏にとって次の試練は、ロシア問題になるとみられる。前任のフリン氏やトランプ氏と異なり、マクマスター氏はロシアを潜在的なパートナーというよりは敵対者とみなす。

昨年5月には戦略国際問題研究所(CSIS)で、ロシアのクリミア編入やウクライナ東部における反政府勢力支援に関して、第2次大戦後や冷戦後に欧州で確立された安全保障、経済、政治の秩序を、ロシアの利益が高まる別の秩序に置き換えようとしている試みの証拠の一端だとの見方を示した。

マクマスター氏とトランプ氏は、米軍の規模やあるべき姿でも意見に違いが見られる。

トランプ氏は選挙戦で、海軍艦船を282隻から350隻に増やすことや、空軍に必要な1200機の戦闘機を配備するなどと約束している。

一方、マクマスター氏は2015年の論文で、偵察・諜報・情報収集・精密攻撃能力の向上に基づき、敵の届かない距離で戦闘することで勝利の見通しが急速に開けるという考え方は誤りであり、目標とする敵の組織と戦略を混同していると述べた。

これらの立場の違いがあってなお、マクマスター氏がトランプ氏やその側近が定めた米国の政策を修正する力を持てるかどうかが問題だ。

元陸軍大佐で、イラクとアフガンにおける軍事行動に向けた米軍の緊急展開方針の見直しに携わったジョン・ネーグル氏は、マクマスター氏は戦略論や超大国としての米国の国際的な責任といった問題の対処法は分かっているが、必ずしも米国の国益を後押ししない行動を取る時の政権をどううまく御していくかが試練になる、と指摘した。

(John Walcott記者)



[ワシントン 20日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国、米国の半導体関税巡り台湾と協力の余地=通商交

ワールド

カナダとインド、貿易交渉再開で合意 外交対立で中断

ワールド

ハマス代表団、エジプト情報機関トップと会談 イスラ

ワールド

ブラジル前大統領を拘束、足首の監視装置破損で逃亡の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中