最新記事

イデオロギー

崩壊から25年、「ソ連」が今よみがえる

2017年1月6日(金)11時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

Sisse Brimberg-Cotton Coulson-Keenpress-National Geographic/GETTY IMAGES

<資本主義が勝利した世界で続く格差対立。トランプがもたらす国家社会主義の時代>(写真:ソ連建国の父レーニンの肖像)

 ソ連という世界2位の超大国が崩壊して25年。筆者はソ連時代のロシアに5年住んだ。自由でいようとする者にとってソ連は過酷な社会だったが、大衆はぬくぬくと暮らしていた。

 ソ連......あれは何だったのか? アメリカとの冷戦で、世界は核戦争寸前といつも言われていたが、実際には米ソ双方とも核戦争を避けるため自重し、世界はかえって安定していた。

 ソ連......それは近代の産業革命、工業化が生み出した格差に対する抗議の声をまとめたものでもあった。それにはマルクス主義という名が付けられて、世界の世論を二分した。

 91年にソ連が崩壊。米ソ対立に隠れていた別の対立軸が前面に躍り出て、世界を引き裂く。工業化に成功した先進国と、工業化のあおりを食うだけの途上国や旧社会主義諸国との間の格差がもたらす対立だ。イスラムテロもこの活断層から生まれた。

【参考記事】トランプとうり二つの反中派が米経済を担う

 ソ連消滅後、アメリカは他国を独裁国と決め付けては民主化をあおり、政権を倒す動きを展開。旧社会主義諸国や途上国を収拾のつかない混乱に投げ込み始めた。自分たちは特別な使命を持つ国だというアメリカのおごり(「例外主義」)に歯止めが利かない。

 マルクス主義は権威を失ったが、格差に対する抗議の声は現在、右翼・国粋主義、反移民運動として表れている。面白いことにロシアのプーチン政権はかつてソ連が国際共産主義運動の旗を振ったのに似て、先進諸国の右翼勢力との提携を強めた。アメリカが展開する国際民主化運動にこうやって対抗するさまを、英エコノミスト誌は「プーチン主義運動」と揶揄する。

 右翼・国粋主義、反移民運動は、政治家にあおられてポピュリズムの大波となった。イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ大統領候補の当選の流れは、先進諸国の政治体制を覆しつつある。

国家が再び舞台の中央に

 ソ連......それは日本にも爪痕を残した。ソ連は第二次大戦直後、日本の占領統治に参加させてもらえなかったが、「革新」勢力を支持して日本の権力を掌握しようとした。イデオロギー対立からソ連と手を切った後も、ソ連が崩壊した後も、日本の革新勢力は投資より分配に過度に傾斜した経済政策や反米幻想を捨てない。革新勢力は戦前の国粋主義を奉ずる一部保守勢力と好一対で、今でも権力奪取の見果てぬ夢を追う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

OPEC月報、石油需要予想据え置き 年後半の世界経

ビジネス

米GM、ガソリンエンジン搭載ピックアップとSUV増

ワールド

トランプ氏「ベセント氏は次期FRB議長の選択肢」、

ビジネス

FRB、インフレ抑制へ当面の金利据え置き必要=ダラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 5
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 6
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中