最新記事

日米関係

トランプ政権の対日外交に、日本はブレずに重厚に構えよ

2016年11月10日(木)19時30分
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)

 だが(2)に陥る危険な兆候が出て来る可能性もゼロではない。例えば、ロシアがアメリカを挑発し、それにトランプが対処できないとか、極端な排外政策が本当に実行されて株価が暴落するといったケースだ。その場合には、アメリカ抜きのG6で真剣に協調しながら、自由世界の価値を守っていく覚悟が必要ではないだろうか。

 仮にアメリカが絶望的なまでの孤立主義に向かうのであれば、日本はNATOとの協調、隣国・韓国との徹底した協調、ASEANやインドとの連携などを中心に「これまでの政策からブレない」ことが必要になる。

 その場合、仮にトランプが自由社会のリーダーという責任を全うする気がないのであれば、安倍首相はG6/NATO/アジアの自由陣営の要として、国際社会においてより重たい責任を担う覚悟をすべきだろう。その場合でも、復古主義などの日本国内の政治事情は封印しなくてはならない。

 TPPの早期批准は、アメリカの選挙結果に関わらず進めるべきだ。別にトランプに対するイヤミとしてのポーズではなく、自由世界、自由貿易の価値を支えていく国という態度の表明であり、G6やASEANあるいは日豪などと相談しながら、ブレることなく進めるべきではないだろうか。

【参考記事】ドナルド・トランプが米既成政治に逆転勝利

 最も重要なのは日韓関係だ。とにかく、アメリカの「不介入」という「空白」が何らかの形で生まれるのであれば、対北朝鮮の抑止力として、日韓連携にブレのないことでそれを埋める努力を示さなければならない。

 台湾、香港の現状維持ということも日本にとっては重要課題となる。中国にこの点での現状変更を思いとどまらせる「アメリカの抑止力」が弱まるのであれば、その分だけ日本がG6と協調して静かな「重し」にならねばならないだろう。

 だからといって、別に中国と敵対する必要はない。安倍政権の進めている対中外交、つまり関係改善はそのまま前進させる中で、「現状変更には賛成しない」というブレのない「ドッシリした」姿勢を見せてゆくことが肝要だ。

 ロシア外交も同様にこのまま進めて行けばいいだろう。12月の日ロ首脳会談に成果を出しつつ、アメリカの存在が希薄になることを受けて、ロシアが現状変更という誘惑にかられることのないように、重厚な姿勢を取るべきだ。具体的にはシリア情勢で、これ以上の「勝手」を自粛させること、これができれば日本として、安倍首相として国際社会での存在感は高まると思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀には成長と物価の両立に向けた政策期待=城内経済

ビジネス

イーライリリー、オランダに30億ドル投じて新経口減

ワールド

中国の軍備増強「世界最大」、各国は対応必要=豪国防

ワールド

香港GDP、第3四半期は前年比+3.8% 予想上回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中