最新記事

差別

日本人の無自覚な沖縄差別

2016年11月4日(金)19時00分
安田浩一(ジャーナリスト)

 当然ながら、この企画には多くの抗議が寄せられる。

 なかでも沖縄の新聞は「同胞に対する侮辱」であるとして、連日、大キャンペーンを張った。

 当時の沖縄紙は「沖縄人が憤慨に絶えざるの一事これあり候」「設立者の意図は野蛮風に見せるのが明らか」「虎や猿の見世物と変わらない」と怒りの筆致で埋められた。

 一方、沖縄知識人の一部は「日本への同化」を急ぐあまりにも、この事件を"利用"した。

 これら知識人は"展示"された琉球人が娼妓であったことから、「よりによって賤業婦とは」と、露骨な女性差別、職業差別を繰り返した。さらに台湾先住民などに対しても「一緒にしないでほしい」といった論調も展開している。「日本人」として認められないことへの憤怒でもあったのだ。

下が下を蔑む日本の差別構造

 貶められた者が、さらに下位に位置付けたものを貶めるといった、差別の連鎖を表面化させた。日本の同化政策、多民族への差別意識といった様々な問題が見て取れる。

 そうした点からも、人類館事件は多くの問題を提起している。

 結局、沖縄側からの抗議によって「琉球人展示」は開催半ばで中止となったが、人類館は万博終了まで"見世物"を続けたのである。

 各国からの非難も相次ぎ、その後の万博において、人類館のようなパビリオンは登場していない。

 だが、生身の人間が"展示"されたという事実は消えない。

「土人」発言に沖縄の人々が怒りを抱くのは、こうした忌まわしい歴史を思い出すからでもある。

yasuda02.jpg
大阪市立中央図書館所蔵「第五回内国勧業博覧会写真帳」より。この写真の右手に「人類館」があった
    
              *****

 そもそも、米軍専用施設の7割以上が、国土の0・6%しかない沖縄に集中していることじたいが、不均衡・不平等である。

 沖縄の多くの人たちが発しているのは常にシンプルな問いかけだ。

「沖縄に基地は多すぎませんか?」

 何十年間も、この問いかけを投げては無視されてきた。いや、それどころか「本土」は自らが抱えた米軍基地を沖縄に追いやってきたのではなかったか。

 富士や岐阜にあった米軍の海兵隊基地は住民の反対運動によって撤去された。しかし、日本から消え去ったわけではない。これらはすべて沖縄に移されただけなのである。そして、沖縄ではどれだけ基地反対運動を続けても、基地が動くことはない。

 これは差別ではないのか。

 第二次大戦で沖縄が戦場となったとき。日本軍が沖縄住民をスパイ視して虐殺した事例は、「本土」の人間は忘れても、沖縄ではいまでも語り継がれている。

 2011年にケビン・メア元米国務省日本部長が「沖縄はごまかしとゆすりの名人」と発言した際、「本土」は本気で怒っただろうか。

 ひとつの風景がよみがえる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

2月企業向けサービス価格、前年比2.7%上昇 前月

ビジネス

米ジェフリーズ、12-2月利益は予想下回る 与信関

ワールド

米主要空港、検査待ち4時間超えも 保安職員の辞職4

ビジネス

中国、メキシコの関税引き上げに報復の権利あると表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 2
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「日本産ミュージカルの夢」に賭ける理由【独占インタビュー】
  • 3
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 4
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 5
    「有事の金」が下がる逆説 イラン戦争で市場に何が…
  • 6
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 7
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    地上侵攻もありえる...イラン戦争が今後たどり得る「…
  • 10
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 3
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 6
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 9
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中