最新記事

日本経済

黒田日銀の異次元金融緩和は「失敗」したのか

2016年11月4日(金)16時30分
野口旭(専修大学経済学部教授)

Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<日銀は11月1日の金融政策決定会合で、物価2%目標の達成時期を「18年度頃」に先送りすることを決定。これに対して、異次元金融緩和政策を「失敗」と批判する発言も多い。しかし、本当に失敗だったのか? インフレ目標政策の本来的な目的、なぜインフレが必要なのか、を考える>

異次元金融緩和の「失敗」をあげつらうメディア

 日本銀行は11月1日の金融政策決定会合で、物価2%目標の達成時期を「2017年度中」から「18年度頃」に先送りすることを決定した。この報道を受けて、従来から黒田日銀の異次元金融緩和政策に批判的であった識者やメディアは、その政策の「限界」や「失敗」を、堰を切ったように言いつのっている。確かに、黒田日銀が発足した2013年4月以降、当初の2015年度頃という達成時期が先送りされるのは、今回で5回目である。そこだけを見ると、日銀はオオカミ少年かという批判ももっとものようにも思われる。

 結論からいえば、筆者は、黒田日銀の異次元金融緩和政策は、確かにその目標の達成期限の約束は守ることができないでいるにせよ、その本来の目的を達成しつつあるという点では、これまでのところは十分に成功であったと考えている。さらにいえば、まったく予期していなかった負のショックが日本経済や世界経済を襲うということでもない限り、「物価2%目標を2018年度中に達成」という日銀の新たな約束が、今度こそは実現される蓋然性は高いと考えている。

【参考記事】より野心的になった日本銀行のリフレ政策

インフレ目標政策の真の目的

 黒田日銀の異次元金融緩和政策への批判は数多いが、最も典型的なそれは、約束された達成期限が守られていないことに対するものであろう。確かに、消費者物価上昇率を2%まで引き上げるという約束は、黒田日銀が発足して3年半が経過しても達成できていないのだから、その点に関して日銀に弁解の余地はない。

 とはいえ、そのことだけから異次元金融緩和政策そのものを失敗と決めつけるとすれば、それはあまりにも短絡的である。というのは、ある政策の失敗や成功というものは、その政策が本来何を目的としていたか、そしてその目的が実際に達成されつつあるのか否かという点から判断されるべきだからである。

 それでは、インフレ目標政策の目的とは何か。それは直接的には「2%インフレ率の達成」そのものである。しかし実は、インフレ目標政策の本来的な目的は、物価それ自体にあるのでは必ずしもない。より重要なのは、望ましい雇用と所得の達成および維持である。というのは、インフレ率をいくら高めたところで、それ自体は人々の経済厚生すなわち豊かさを改善させるわけではないからである。一国が本当の意味で豊かになるためには、何よりも、一国の雇用が増え、所得が増えることが必要である。物価目標の達成というのは、そのような上位の政策目標からすれば、たかだか「目安」にすぎない。

【参考記事】日銀は国内景気の低迷を直視せよ!

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は小反落で寄り付く、利益確定売りが上値抑制

ワールド

グリーンランドは「安全保障に必要」、トランプ氏が特

ビジネス

ペルツ氏のトライアンの連合、アクティブ運用ジャナス

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中