最新記事

中国外交

李克強マカオ訪問に潜む中国の戦略

2016年10月13日(木)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

訪中したポルトガルのコスタ首相(左)と握手する中国の李克強首相 Naohiko Hatta-REUTERS

 10月10日から12日まで李克強首相がマカオを訪問した。その背後には中国のしたたかな戦略がある。ポルトガル語圏諸国を制して人民元を流通させ世界金融市場を中国に惹きつける狙いなど表面的には見えていない戦略を考察する。

香港、台湾を牽制

 10月10日、マカオの空港に降り立つなり、李克強首相はマイクを前に「マカオこそは一国二制度を成功させ実践している熱い地である」とマカオを褒めたたえた。

 それは、たび重なる民主化運動によりコントロールしにくくなった香港と、蔡英文という独立志向の強い民進党政権が台湾に誕生してしまったことへの牽制であることは、誰の目にも明らかである。

 マカオを絶賛し、経済的支援を強めて、香港や台湾の民に焦りを覚えさせることによって、北京に従わせようという魂胆だ。

 しかし、そういった精神的あるいは思想的な側面からのコントロールだけでなく、実は中国には「マカオを、ポルトガル語圏を制するための拠点にする」という、非常に遠大な戦略があったのである。

 その戦略が見据えているのは、「人民元流通圏の拡大」という世界金融市場における狙いであり、最終的には一帯一路の充実と拡大にある。

 その意味で、これまで香港が果たしてきた「世界金融センター」としての役割を、香港からマカオに移そうという狙いもある。

ポルトガル語圏に人民元を流通させる

 2015年11月、IMF(国際通貨基金)理事会は、人民元をSDR(特別引出権)通貨バスケットに採用することに合意したが、今年10月1日付で、その決定が正式に採用され、実施され始めた。人民元はそれまでの4主要通貨である「米ドル、ユーロ、日本円、(スターリング)ポンド」に加えて、5番目の通貨として「国際化」したことになる。

 具体的には、中国経済を国際金融制度に組み込むことにつながり、習近平政権が進めてきたAIIB(アジア・インフラ投資銀行)を、より有利に導く働きをする。

 ところが、 その割には、中国金融制度の実態が透明でなく、構造改革もスローガンに挙げているだけで進む傾向にはない。過剰生産を生んでいる国有企業などの構造改革を本気でするには、政治体制改革が必要で、政治体制改革などをしたら一党支配体制が崩壊しかねない爆弾を抱えている。

 そのため、IMFが認めたほどには人民元の信頼性が高いわけではなく、中国としては、なんとしても人民元の流通国家を増やしていかなければならないわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中