最新記事

ロシア

プーチンをヨーロッパ人と思ったら大間違い

2016年10月7日(金)18時14分
アンドリュー・コーンブルース(米大西洋協議会)

白人同士でも心が通じ合うとは限らない Ivan Sekretarev-REUTERS

<ロシアがシリアで停戦を守らず無差別爆撃を再開した、といってアメリカは怒る。だがロシアは、ウクライナでも約束など守ったことがない。対ロ外交で間違いを繰り返すのは、ロシア人もヨーロッパ人と同じような考え方をしていると思い込んでいるからだ>

 まるで故障中の自動販売機に入れてしまった硬貨のように、ロシアと協力してシリア内戦を停戦に導くというアメリカの努力は無駄に終わった。

 それどころか、ロシアとシリア両政府軍は、停戦の発効からわずか1週間後に人道支援物資を載せた国連の車列を攻撃し、その後は反政府派支配地域の北部アレッポで過去最大級の空爆を続けている。ロシアを取り込もうという長く不毛な外交努力の果てに、アメリカは米ロ2国間を停止しシリア和平の道は閉ざされた。

【参考記事】オバマが見捨てたアレッポでロシアが焦土作戦

 この経過を見ると、一つの疑問が湧いてくる。そもそもなぜバラク・オバマ米政権は、ウクライナ東部の停戦合意をことこどく反故にしてきたロシアが、シリア内戦解決のための2国間協議の約束は守ると考えたのか。

 ロシアは、欧米人がロシア人に対して抱く誤った親近感のおかげでトクをしている。というのも欧米人は、見るからに異質なアジアなどの国々と比べればロシアはもっとヨーロッパに近くて、西側の人道主義を理解する指導者もいるはずだという根拠のない思い込みをしている。

指導層はほとんど白人だが

 欧米人は昔からアジアの異質性を強調し過ぎることで批判されてきたが、グローバリゼーションが進むにつれて東西の違いは小さくなった。伝達される情報のスピードや量が増え、自分から遠く離れた人々や場所との親交が深まったような錯覚が生まれたからだ。さらに、全人類の人権を尊重しようという気運が高まるにつれて、国家間の文化的な違いに言及すること自体がタブーになるほど、国家や文化の異質性をめぐる問題に敏感になった。

 ロシアの場合、国家指導者のほとんどが白人で、西側諸国のやり方を忠実に模倣した立法、行政、司法機関を持つために、西側との違いは一層目立たなくなった。米共和党大統領候補ドナルド・トランプが中国の習近平国家主席と「親友」になったと言いふらすところは想像できないが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が相手なら気安くできてしまったのもそのせいだ。

【参考記事】トランプはプーチンの操り人形?

 だがロシアがヨーロッパに属すという勘違いは、プーチンを利するだけだ。外部から見たロシアに関する我々の知識は薄っぺらで情報も限られているため、プーチンは国外での自分のイメージを思い通りに操作できる。西側の民主主義がぐらつく間に、ロシアには決断力があって物事に動じない父親のように頼れる指導者がいると思わせるのも自由自在だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

主要行の決算に注目、政府閉鎖でデータ不足の中=今週

ワールド

中国、レアアース規制報復巡り米を「偽善的」と非難 

ワールド

カタール政府職員が自動車事故で死亡、エジプトで=大

ワールド

米高裁、シカゴでの州兵配備認めず 地裁の一時差し止
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリカを「一人負け」の道に導く...中国は大笑い
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 9
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 10
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中