最新記事

EU

巨額の追徴課税、アップルは悪くない

2016年8月31日(水)18時51分
デービッド・フランシス

Clodagh Kilcoyne- REUTERS

<アマゾンやマクドナルドも調査中で、米政府もカンカン。これはEUとアイルランドの問題だ>

 2015年度の売上高が2340億ドルと好調だった米アップル。だがここにきて、同社の税逃れをやり玉にあげるEU(欧州連合)に、145億ドルもの追徴金を支払わされる可能性が出てきた。

 欧州委員会は30日、アップルがEU域内で上げた利益に対し、2003~14年の間に1%しか法人税を払っていなかった。たった0.005%という年もあった。極度に低い税率は違法な補助金に当たると判断したのだ。

 アップルは1980年からアイルランドに子会社を置き、欧州の企業活動の拠点としている。同国の法人税率は12.5%で、アップルの子会社にかかる税率はそれを大幅に下回っていた。足りなかった分は、アイルランド政府がアップルから取り戻すべきだというのだ。

【参考記事】パナマ文書、本当の暴露はこれからだ


「EUの加盟国が特定の企業を税制面で優遇することは許されない。これはEUの補助金規制の下では違法だ。欧州委員会の調査は、アイルランド政府がアップルに対して違法な法人税の優遇措置を適用し、アップルが長年にわたり他企業と比べてはるかに少ない税金を納めるのを容認していたと結論付けた」と、デンマークのマルグレーテ・ベステアー欧州委員(競争政策担当)は声明を発表した。

アマゾンやマクドナルドも

 アップルに対する巨額の追徴税は、EU域内で事業を展開するアマゾン・ドットコムやマクドナルドといった他の米企業にとっても脅威だ。事実、EUはこの2社についても公平な額の税金を納めているかどうかの調査を進めている。

【参考記事】「解除拒否」アップルの誤算

 EUの決定で、オバマ米政権の立場も苦しくなった。バラク・オバマ大統領としては、米企業に国内に留まってもらい米国側の税収を確保したい反面、EU側がヨーロッパに進出する米企業を狙い撃ちして税金を吸い上げるのも許しがたい(米企業がEUに納める税金が増えれば、二重課税を回避するためにはその分米国内の税収減につながりかねない)。米財務省は30日、EUの決定に失望したと発表した。

【参考記事】アップルも撃沈させた中国一恐ろしいテレビ特番、今年の被害者は?

 米共和党の議員もオバマの失望を共有する。ポール・ライアン米下院議長は声明で次のように述べた。「ひどい決定だ。ある企業に対し、何年も経った後に今さら巨額の追徴税を突き付けて制裁を科すことがまかり通れば、大西洋をはさむ両地域の雇用創出に向けて誤ったメッセージを送るのは間違いない。多くのヨーロッパ諸国の税制からも逸脱するものだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英利下げ支持には雇用と消費の軟化必要=グリーン中銀

ワールド

「麻薬運搬船」への複数回攻撃はヘグセス長官が承認=

ワールド

トランプ氏のMRI検査は「予防的」、心血管系良好=

ビジネス

再送-インタビュー:USスチール、28年実力利益2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中