最新記事

対テロ戦争

ISISへ経済封鎖、米国が投入する「新兵器」

2015年11月26日(木)19時03分

 こうしたプロセスに詳しい元軍幹部の1人は、FinCENが収集した金融情報に基づいて軍が行動する場合は「かなりの事前調査」が必要になるだろう、と話している。

 国防総省の広報担当者によれば、今月行われた米国主導の有志連合による空爆で、イスラム国の石油密輸に使われる燃料輸送車116台が破壊された。攻撃の45分前には運転手に逃亡を呼びかけるリーフレットが散布されていた。これに加えて21日には、イスラム国の燃料輸送車283台が有志連合の攻撃によって破壊されたという。

 また、8日には、有志連合の空爆により、トルコ国境に近いシリア領内の石油精製所3カ所が破壊された。

 米国が「史上最も裕福なテログループ」と呼ぶイスラム国は、国防総当局者によれば、10月までは月4700万ドル(約58億円)もの収益を石油の密売によって得ていた。

 米軍は10月に、石油関連施設に対する攻撃強化作戦を開始。作戦名「第2次津波(タイダルウェーブ)」は、ルーマニアの油田を標的とした第二次世界大戦中の爆撃作戦にちなんでいる。

 この攻撃によるイスラム国の石油密売収入への影響についてはこれまでのところ報告されていないが、当局者によれば、約30%減収したと国防総省は見ているという。今回の取材では、その裏付けは取れなかった。

 米軍による攻撃目標の選択に、金融取引記録が用いられているということが最初に明らかにされたのは、先週ワシントンで開かれた銀行業界のカンファレンスだ。米特殊作戦軍で対テロ金融チームを率いるカート・グレジンスキー氏は、このカンファレンスの席上、イスラム国に対する戦いにおいて銀行が提供する情報の重要性に言及した。

 「私の記憶では、対テロ金融情報に基づいて戦略的に攻撃目標を定めたのは、あれが最初だった」と同氏はカンファレンスで語っている。具体的にどの攻撃を指しているのかについて、同氏はコメントしなかった。

強靱な財務ポートフォリオ

 オバマ政権の考えに詳しい2人の元当局者によれば、資金供給が締め付けられれば、イラク及びシリアの支配領域に対するイスラム国の統制が徐々に弱まっていくというのが米当局の考えである。イスラム国としても、給料を支払い、公共インフラの運営を維持していくために収入が必要だからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中