最新記事

生命倫理

ベルギー「子供の安楽死」合法化のジレンマ

2014年2月17日(月)12時20分
エリーサーベト・ブラウ

国民の74%が新法を支持

 ほとんどの動物がそうであるように、人間にも子供たちを守ろうとする本能がある。20世紀のドイツの神学者ディートリヒ・ボンヘッファーの言葉を借りれば、「社会の道徳性の高さは、子供たちをどう扱うかによって判断できる」。

 では、医師が子供の死を手助けするのを許そうとしているベルギー社会は、一線を越えてしまったのか?

 それとも、子供たちの苦しみに終止符を打てるようにするという意味で、世界で最も子供に優しい社会になろうとしているのか?

「もちろん私自身、法案を支持すると決めるまでにはずいぶん悩んだ。上院議員は誰もがそうだった」と、与党・社会党のフィリップ・マウー上院議員団長は言う。「しかし、子供たちの苦痛を和らげる手だてがないケースもある。その点が最大の決め手になった」

 子供の安楽死を認めるべきかどうかは、ベルギー社会を二分した論争になっている。それも旧来の政治的イデオロギーではなく、個人の道徳観によって意見が分かれている。

「どう考えていいか分からない」と、東部の都市リエージュで映画関連の仕事に就いているセバスティアン・プティ(34)は言う。「子供たちの命を奪うのは間違っていると思う半面、苦しんでいる子供たちがいることもよく分かる」

 作業療法士をしている妻マリー(28)は、成人の安楽死法がうまく機能していると考えており、子供の安楽死を合法化することにも問題はないという意見だ。ラ・リブレ紙の世論調査によれば、74%の人が新しい法律を支持している。

 しかしカトリック教会、イスラム教、ユダヤ教などの宗教団体や、多くの医師、看護師は強く反対している。「苦痛や終末期の不安は薬物によって必ず抑えられる」と、レーベン大学病院の腫瘍専門医ブノワ・ビューゼリンクは主張する。

「それで十分でなければ、苦痛緩和のための薬剤を与えて深い眠りに就かせることもできる。これでもう苦しむことはなくなり、たいていは数日のうちに息を引き取る。その間、家族は子供と一緒の時間を過ごし、別れのプロセスに入れる」と、ビューゼリンクは言う。「死とは本来、自然なプロセス。できる限り、それを尊重すべきだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア中銀、ユーロクリアを提訴 2300億ドルの損

ワールド

中国が岩崎元統合幕僚長に制裁、官房長官「一方的措置

ビジネス

フジHD、33.3%まで株式買い増しと通知受領 村

ビジネス

アングル:日本株の年末需給、損益通算売りの思惑 グ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中