最新記事

原発

原発推進派のメルケルも日本無視できず

地震で被災した日本の原発が危機に陥っているのを見て、「やっぱり危ないじゃないか」と怒り出したドイツ人

2011年3月15日(火)16時50分
バリー・ニールド

7割が反対 原発反対を訴えるベルリンのデモ(3月14日) Tobias Schwarz-Reuters

 ドイツのアンゲラ・メルケル首相は昨日、老朽化しつつある国内の原子力発電所の稼動延長を3カ月間凍結すると発表した。地震で被災した日本の原発が深刻な事態に陥っていることを受けた措置だ。「日本の原発事故は、あらゆる科学データの想定を超えた事態も起こりうるという証明だ」と、メルケルはドイツのラジオ局ドイチェ・ウェレに語った。

 今後3カ月の間に稼動停止する予定だった原発に関しては、直ちに稼動停止するという。だとすれば76年と75年に稼動開始した最も古い原子炉ネカワストハイム1とビブリスAが止まる可能性が高いと、アルジャジーラは報じている。

 ドイツでは、原発は数十年前から激しい論争の種だった。09年に発足したメルケルの中道右派連立政権はそれまでの脱原発路線から原発推進に舵を切ったが、ニューヨーク・タイムズ紙によれば、「世論調査では最大70%ものドイツ人が原発に反対している」。

 メルケルは日本の震災後の12日、ドイツの原発は安全だと強調したが、その後「何事もなかったような顔をして運転を続けるわけにはいかない」とリスクを認め、徹底的な安全性検査を命じたとガーディアン紙は報じている。

2年後の総選挙にも影響か

 南部のシュトゥットガルトでは同日、数万人規模のデモがあり、メルケル政権にドイツの17基の原子炉の稼動期間を12年延長する計画を破棄するよう要求した。月曜には、ベルリンでさらに大規模なデモがあった。

「日本の原発事故を見たドイツ人は、原発はやっぱり危険じゃないかと怒っている」と、ニューヨーク・タイムズ紙は伝える。「科学者のなかには原発の危険を実際より小さく見せようとする人がいるが、ドイツ人はいざ事故が起こったときの影響を死ぬほど心配している」

 原発問題は政権の行方をも左右しかねない。総選挙はまだ2年先だが、反原発を掲げる緑の党が、メルケルから票を奪う可能性もある。

「ドイツ人は、原発問題に関しては緑の党がいちばん正しいと見ている」と、エアランゲン・ニュルンベルク大学の政治学者ローランド・スタームはウォールストリート・ジャーナル紙に語った。「その影響は選挙結果にも表れるだろう」

 一方、EU(欧州連合)は火曜にエネルギー担当相らの緊急会議を開き、万一日本型の原発事故が起こった場合に備え、欧州内の原発の耐震性や安全対策を総点検する。EUの声明によれば「現行の危機対応プランと安全対策に関して生の情報を得る」のが目標だという。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エクイノール、NY沖風力発電事業取りやめも 米政権

ビジネス

独新政権、EU財政ルールは歳出拡大計画の足かせと想

ビジネス

ヤマハ発、25年12月期の営業利益見通し据え置き 

ビジネス

ロシュ、7億ドルで米ノースカロライナ州に生産施設設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 6
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 9
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 10
    ハーネスがお尻に...ジップラインで思い出を残そうと…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中