最新記事

世界経済

中国の世紀がまだ来ない理由

2010年1月20日(水)15時14分
ミンシン・ペイ(米クレアモント・マッケナ大学教授、中国専門家)

超大国らしくない外交

 この変化に対応するため、中国政府は痛みを伴う改革を行う必要がある。多くの輸出向け工場を閉鎖し、今もGDP(国内総生産)の40%以下に低迷する消費者支出を促進するために社会的なセーフティーネット(安全網)を強化すべきだろう。中国指導部も改革の必要性は理解しているはずだが、まだ踏み切れずにいる。

 もう少し子細に見ていくと、今回の危機から中国が利益を得たかどうかはさらに怪しくなってくる。むしろ確かなのは、中国が明らかに失敗していることだ。

 例えば、中国政府が外国の優良資産の買収に失敗したケースである。中国指導部は資源確保の目的で、これまで外国の油田や鉱山などの支配権を手に入れようとしてきた。指導部はそれが中国の長期的な「安全保障」にとって重要だと考えている。

 だが欧米の政治家や既得権益を持つ企業、用心深い途上国の政府の反対によって、この計画はうまく運んでいない。中国政府の方針に基づき、国有企業がカネにあかせて買収などを試みたが、おおむね阻止されている。金融危機が始まった後も、国有企業や政府系投資ファンドは小規模ないくつかの資源企業の株は取得したものの、大きな成功は収められなかった。

 それどころか、大失敗もあった。国有の中国アルミ業公司(チャイナルコ)は09年2月、英豪系資源大手リオ・ティントに195億ドルの追加融資を行い、持ち株比率を2倍にする暫定的な合意を結んだと発表。しかし、株主の激しい反対とオーストラリア当局の警戒によって成立には至らなかった。中国のことわざにあるように「食卓にのっていたカモが飛んでいった」ようなものだ。

 解せないことはまだある。中国が本当に強大だとしたら、なぜ地球規模の問題でもっとリーダーシップを取らないのか。中国政府の高官は重要な国際会議にほぼ必ず参加している。しかし見解や支持を強く求められても、目立つことは避けている。ひたすら国益の保護に務めるだけで、存在感を示す機会を棒に振っている。

 09年4月にロンドンで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)でも、そうだった。中国が興味を示したのは、タックス・ヘイブン(租税回避地)の「ブラックリスト」に香港を入れないようにすることだけだった。中国政府の外貨準備高は2兆1000億ドルに上っているのに、そのカネを地球規模の危機への対処に提供するわけでもない。

 ドルに代わる国際的通貨は求めても、世界の金融システムの改革については語らない。09年12月にコペンハーゲンで開かれた国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)は、京都議定書以後の地球温暖化対策を話し合う重要な場だったが、ここでも中国がリーダーシップを発揮することはなかった。

 中国の外交政策は、相変わらず受け身なままだ。本当に中国が超大国になったというのなら、おそらく指導部がそれを知らされていないのだろう。

国内に火種が多すぎる

 国際舞台で国力を実益に変えられない現状に、中国の大半の指導者は関心を払っていないようだ。国内の安定維持のほうがはるかに大きな関心事だからだ。

 国内でも心配の種は増えている。各地で反政府暴動や抗議デモが増加している。汚職が蔓延し、09年には公安当局副局長や国有企業トップなど十数人の公人が逮捕された。12年に引退する胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の後継をめぐる権力闘争も始まっている。どんな小さな失敗も政治的な命取りになりかねないから、指導部の面々はこれまでにも増して用心深くなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ453ドル安 原油高と雇用

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、スイスフランに逃避買い

ビジネス

米、45日以内にトランプ関税還付システム準備 徴収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園で撮影された「恐怖の瞬間」映像にネット震撼
  • 4
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 5
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 6
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    アルツハイマーを予防する「特効薬」の正体とは? …
  • 10
    【イラン戦争で中東再編へ】トランプを止めるのは湾…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中