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新聞という過去の遺物を救済するな

再生法案など愚の骨頂、報道と民主主義の未来はネット上にある

2009年12月10日(木)16時07分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

古き良き… ニューヨーク定番のニューススタンドも時代錯誤になる? Spencer Platt/Getty Images

 まともな頭の持ち主なら、ニュース業界の未来が液晶画面ではなく、紙とインキにあるなどとは思わないだろう。ニュース業界がどこへ向かっているか、少なくとも10年前から誰もが知っている。

 なのにどうして、アメリカでは新聞救済が議論されているのか。バラク・オバマ大統領はなぜ、検討するなどと言っているのか。議会はなぜ、病んで老いぼれた新聞を優遇税制措置などの施しで救おうと、公聴会を開いて「新聞再生法案」を検討しているのか。これはまるで、馬車や蒸気機関車や白黒テレビを救う法律を導入するようなものだ。ばかげている。無意味だ。うまくいくわけがない。

 実はこうした過剰反応は、ニュース業界の救済とも雇用の保護とも関係ない。民主主義の救済とも無関係だ。新聞を愛する人々は、新聞と民主主義が切っても切り離せないかのように、いつも顔を真っ赤にして騒ぎ立てる。しかし民主主義は新聞よりずっと前から存在しており、新聞がなくても生き残るだろう。新聞はあっても民主主義がない国もたくさんある。

 救済で読者が救われるわけでもない。むしろ、情報伝達メディアとしてはるかに優れたインターネットへの移行を遅らせるだけだ。

 救済で得をするのはひと握りの大手新聞社だけだろう。かつての収益力と影響力は、今は見る影もない。大手新聞社は、インターネットが貨物列車のように自分たちに突進してくるのに、線路の上に立ち尽くしていた。インターネットに順応しなかった。

公器を装う独占企業

 どうしてかって? それは、彼らが何十年間も事実上の独占状態にあぐらをかいていたせいだ。独占を守ることにカネや労力をつぎ込み、いじめ戦術で市場への新規参入を阻んだ。二流の商品を適当に仕立て、自分たちの小さな金鉱を何者かに奪われる可能性があるなんて、考えもしなかった。

 こういう連中が「言論界」を気取り、読者に貴重な公共サービスを提供していると吹聴するのには、笑ってしまう。彼らの本当の顧客は常に、読者ではなく広告主なのだから。

 ここ数年、その真実が暴露されている。現金を手に入れようと必死になった新聞は、娼婦が服を脱ぐようにいともあっさりと、自分たちの「聖なる原則」を引っ込めた。一面に広告を掲載する? 記者にスポンサー付きの記事を書かせる? お安いご用だ。

 今ではポリティコだのハフィントン・ポストだのデーリー・ビーストだのゴーカーといったオンラインのニュースメディアが、本家本元の新聞を出し抜いている。こうした新参組のほうが迅速で、しかもたいてい優秀だ。先を行く彼らを新聞が追い掛けている。

 古参組は、ニュース業界をがっちり掌握していた頃に本気で戻るつもりなら、新参組の買収を考えなくてはならない。問題は、ぐずぐずしている間に買収する資金がなくなってしまったことだ。

カネを吸い尽くすゾンビ

 確かに、インターネットのニュース配信でどうやって大金を稼ぐのか、まだ誰も答えを見つけていない。その原因の1つには、あまりに多くの古参新聞社がゾンビのように──時代遅れのビジネスモデルにしがみつき、辛うじて生き永らえている別の世紀の生き物のように──よろよろとさまよいながら、カネを吸い尽くしているせいだ。ネット企業ならもっとうまくカネを使えるはずなのに。

 私たちは新聞を救済するどころか、むしろその死を早めるべきだ。弱い新聞は死ななければならない。強い新聞は一旦倒産し、人員もコストも削減して事業を再編する必要がある。それには痛みを伴うはずだ。それでもジャーナリストに仕事の口はある。新聞より優秀で迅速なメディアで働けばいい。

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