最新記事
放射能

主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立入禁止区域で発見された「進化の異端児」

Strange Chernobyl Black Fungus May Eat Radiation

2025年12月4日(木)17時00分
ジャスミン・ローズ
チェルノブイリ原子力発電所跡地

チェルノブイリ原子力発電所跡地周辺は、深刻な放射能汚染のため立ち入り禁止となっている BPTU-shutterstock

<本来生物に有害な放射能を「食べる」生物は、「意外な分野」で役立つかもしれない>

ウクライナで起こったチェルノブイリ原子力発電所事故。この事故により、発電所周辺には放射性物質が巻き散らかされ、人間はおろか生物が住めない不毛の地となった。

【写真】【動画】放射能を「食べる」生物の正体

しかし、そのような過酷な地でも環境に適応し、繁殖している生物が存在する。


放射性粒子に向かって成長し、電離放射線を栄養源として生存しているその生物は、複数の菌類によって形成された黒カビだ。

電離放射線とは、電子を原子から弾き飛ばすほどのエネルギーを持つ電磁波や粒子線を指す。細胞内で化学変化を引き起こしたり、DNAを損傷したりする可能性がある。人間も自然由来の電離放射線に日常的に晒されているが、度を超えた被曝は健康被害を引き起こす。

米アルバート・アインシュタイン医科大学モンテフィオーレ医療センターのジョシュア・ノサンチャク教授は「菌類はこれまで、過酷な環境下での『訓練キャンプ』をいくつも経験しており、必然的に(その環境に適応するため)防御機能や有利な能力を進化させてきた。放射線を『食べる』、すなわち放射合成は、メラニン色素を生成する特定の菌類が獲得した適応の一例だ。この菌類によるエネルギー変換のプロセスは、クロロフィルに基づく光合成に類似している」と本誌に語った。

米ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のマウリツィオ・デル・ポエタ教授(微生物学・免疫学)は、「菌類は非常に長い間存在しており、放射線にさらされるような極限環境でも生存・増殖できるよう進化してきた。我々は今、彼らがメラニンという黒い色素を産生することで放射線から細胞を保護し、生き延びていることを知っている。科学者たちは、放射線によって刺激されて生成されたメラニンが、分解される過程で小さな分子となり、その過程で化学エネルギーが生成されるのではないかと仮定しており、この現象を『放射合成』と呼んでいる」と本誌に語った。

「すでに我々は、特定の菌類が高度に移動性の高いウランを安定かつ不溶性のウラニルリン酸塩鉱物へと変換できることを知っている。たとえば、アスペルギルス・ニガーやパエシロマイセス・ジャバニクスといった菌類は、環境中のウラニルリン酸塩鉱物を沈殿させることで、ウランが地下水に到達したり、植物に吸収されて人間や動物の食物連鎖に入り込んだりするのを防ぐことができる。こうした分野は今後より集中的に研究するべきだ」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トルコ、ロ・ウにエネインフラの安全確保要請 黒海で

ワールド

マクロン氏、中国主席と会談 地政学・貿易・環境で協

ワールド

トルコ、ロシア産ガス契約を1年延長 対米投資も検討

ワールド

米国がAUKUS審査結果提示、豪国防相「米は全面的
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中